03




壱が女性を怖がっている、というのはどうやら本当のようだ。
壱が入院して二日目、寺門と女性看護師で壱の個室に入ると、看護師の姿を見た壱の体がビクッと動いた。それから点滴の確認のために看護師が壱に近付くと震えてしまったので、かわいそうになり確認は寺門が行った。

「今日は色んな検査をやるから。今の時点で、具合が悪いところとかある?」
「ないです」
「そう? 朝ごはん美味しかった?」
「……微妙、です」
「ハハッ、そっか」

確かに、病院食はあまり美味しくないかもしれない。本当に微妙そうな顔をする壱がおかしくて、寺門は笑った。それに釣られたのか、壱の表情が少し柔らかくなった。

「壱くんは食べ物なにが好きなの?」
「納豆とか」
「へぇ、意外! あ、明日の朝食確か納豆でるよ」

そう言うと、壱が目を輝かせて笑った。
今まで無表情だった壱のそんな顔が見られて、寺門はなんだか感動を覚える。

「じゃあ、今日の検査頑張ってね」
「はい」
「あ、俺は寺門雅。壱くんの担当になったからよろしく」
「よろしくお願いします」

そのまま口元に笑みを浮かべる壱に、ご機嫌になった寺門が手を振り病室を出た。
廊下に出た途端、看護師に良かったですね、と言われ満更でもなく頷く。思ったよりも早く壱の笑顔を見られて、寺門は嬉しくなった。




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