04




「それじゃ、お願いします」
「お前人使い荒いな」
「なに言ってんすか、感謝してくださいよ」

ふわふわとした意識の中で、そんな会話が聞こえた。
一人は井沢の声で、もう一人は、大嫌いな警察だけどすごく頼りになる千葉のもの。二週間ぶりに聞く千葉の声は、聞き慣れた敬語ではなく砕けた口調だったが、それでもやっぱり無愛想だ。
そんなことを考えながら、誠は一人小さく笑った。

すると急に体を支えられ、次に感じたのは、浮遊感。気付けば誠は、千葉の背中に背負われていた。

千葉は井沢と簡単に言葉を交わすと、誠を背負い歩き出した。一応成人した男であるというのに誠は小さく、軽い。千葉はさして苦労することなく、帰路を辿る。

「ちーばーしゃん」
「なんだよ」
「敬語じゃらいんら」
「今日はオフだからな」

普段の誠ならば警察官なんかに世話になってたまるかと暴れ出しそうなものだが、酔った誠はそんなことをせず、素直に千葉の首元に腕を回している。
本人の言うとおり、千葉は今日制服を着ておらず、男らしいスッキリとした私服に身を包んでいた。

「あのねー、ちばしゃんがねー巡回してくれたおかげれー、ストーカーいらくらった!」
「そりゃ良かったな。でもまた暫くしたら復活するかもな」
「えー……そしたらちばしゃん、また来てー?」

千葉の肩に頬を乗せた誠の顔は見えないが、声が少し不安そうだ。
今日これだけ酔ったのもストーカーから解放された嬉しさからだと井沢に聞いたし、相当ストレスになっていたのだろう。

「すぐ行くよ。お前、俺の番号登録してあるんだろうな」
「してるよー!」
「お、まじで?」
「警察は嫌いらけろー、ちばしゃんは大好きなのおれー!」
「……お前、本当酔ってんな」

普段絶対そんなこと言わないだろ、と千葉は呆れたように笑った。


それから、上機嫌に鼻歌まで歌い出した誠を背負いながら歩き、アパートまで着いた。
誠に鍵を開けてもらい、二人で部屋の中に入る。千葉は一応警戒して外を見回し、念入りに鍵をかけてから、背負った誠をベッドまで運んだ。

「ほら、水」
「うー」
「気持ち悪いか?」
「らいじょうぶー」

ヘラ、と笑う誠に千葉も釣られて笑う。
この前までは警察官である千葉に酷い敵意を向けていたのに、すごい変わりようだ。
それだけ千葉自身が誠の助けになれたのかと思うと、柄にもなく嬉しかった。

ベッドで横になる誠は、眠くなったのかやがてうとうとし始めた。千葉はボトルの半分程に減った水をその手から取り、キャップをしめてベッド脇の棚に置く。それから、誠の髪をくしゃりと撫でた。

「かわいいな、本当に」

今みたいな、無垢な寝顔も。
ご機嫌に鼻歌を歌うところも。
笑顔で話すところも。
最初みたいに、千葉に対して警戒心を剥き出しにしていたところも。
すべて。

「バカだな、俺」

ストーカーから守ってやるのが、警察官である自分の仕事なのに。
誠に惚れてしまうだなんて、こんな馬鹿な話はない。

「ちば、しゃん……」

スヤスヤと寝てしまった誠のそんな寝言が、とても嬉しくて。
最初は顔が良いだけの生意気で捻くれた後輩だと思っていたのに。

「まこと」

千葉は愛おしげに誠の名前を呼ぶと、優しくその頬を撫でた。
それから名残惜し気に髪をもう一度撫で、立ち上がる。

井沢に言われたように、誠の部屋の小棚にあった合鍵を借り、玄関で靴を履いて外に出ると、しっかりとドアの鍵を閉めた。寝ている誠にストーカーが押し入りでもしたら大変である。

それからアパートの階段を降り、千葉は帰路に着いた。
潰れた誠のために自分を寄越してくれた井沢に感謝しながら、千葉もまた鼻歌まじりで夜の道を歩いたのだった。





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