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最初は、勘違いだと思っていた。
男の自分が同じ男からストーカーをされるだなんて、信じる方が難しいだろうと、矢内誠はため息を吐きながら速足で歩く。

ここ最近、誠はストーカー被害に遭っていた。
都内のアパートに一人暮らしをし、そこから大学に通っているが、バイトしている居酒屋から帰る時どうにも誰かにつけられているのだ。

つけられていると薄々感じ始めた時から何度となく全力疾走して逃げようとしたが、後ろの誰かも全力で走って追い付いてきたために男だと確信。自慢ではないが誠は短距離走が得意なため、女性が誠に追いつくことはほぼ不可能といえる。
認めたくはなかったが、ストーカーの犯人は男であるようだ。


「まこー。おぉ、相変わらず疲れた顔してんなお前」

大学で、誠の友人である井沢は苦笑した。
ここ最近の誠の顔色は悪く、今日もまた例外ではないようだ。

「またストーカー?」
「……そう」

男が男からストーカーに遭っているだなんて誠には恥ずかしくて仕方ないことだが、大学で一番仲の良い井沢には相談をした。
毎日誰かにつけられ、夜寝ていると玄関のドアをガチャガチャと捻られる生活は、思った以上に苦痛だったのだ。

井沢からすれば、誠のストーカー被害はかわいそうだが少し納得できる節もある。
誠は、とにかく顔が整っているのだ。ただ残念ながら男性らしい魅力というよりは中性的で、そのせいか女性にモテるということもない。
話せばただの大学生だが、一度口を閉じれば一気に儚い雰囲気がその身を包む。誠に不埒な気持ちを抱く者は少なくはなく、それがストーカーという行為に及んでも何ら不思議なことではなかった。

「俺の先輩紹介するって」
「先輩って、警察官の?」
「そうそう」

余程ストーカーに参っているのか疲れた顔をする誠が不憫で、井沢はすでに何度目かになる提案をした。
井沢の先輩である千葉弘樹は、大学を卒業してから警察官になった。駅の近くの警察署に配属されており、男らしく整った顔立ちのせいかそこにはいつも道を尋ねる女性が後を絶たないらしい。
そんな千葉に誠の力になってもらおうと井沢は何度か相談をしたが、当の誠はキッパリと言うのだ。

「俺、警察嫌いだからいい」

ストレスでやつれた顔をしているくせに、その気持ちは絶対に曲げない。
誠は、大の警察嫌いだったのだ。



誠が警察という組織を嫌いになったのは、幼い頃にあったある事件がきっかけだった。
井沢はそれについて詳しく聞いていないが、誠の様子を見るに相当嫌な目にあったのかもしれない。全ての警察官が誠の思うような人間ではないだろうと井沢は何度か説得を試みたが、誠自身もそれをしっかり理解していて、その上で警察が嫌いなのだと返された。
そう言われてしまえば、井沢はもう何も言い返せない。

それでもやはり、次第に弱っていく誠を放っておけない。
井沢も何度かストーカーを捕まえようとしたが、一度だけストーカーがナイフのようなものを取り出したことがあり、情けないが誠と一緒に慌てて逃げたことがある。誠はナイフについては気付いていないようだったので、これ以上怖がらせる必要はないだろうと事実をふせてある。

とにかく、武器を持つストーカーを相手にするのはその道のプロでなければならない。だから警察を頼って欲しいのに、頑固な誠は頑なにそれを拒む。
どうしたものかと、弱る誠を見て井沢は頭を悩ませたのだった。



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