50000 | ナノ


レイリーは見てしまった。なまえとシャンクスが人気のない納戸に入って、いちゃいちゃちゅっちゅべろべろと濃厚なキスをしているところだ。普段公の場でしているような軽いキスとは全く違っていたので、ようやくあいつらくっついたのかと安心半分心配半分、複雑な気持ちにもなったが、今はそれどころではない。レイリーとて知り合いのこんな濃厚なキスシーンを見たくて見ているほど悪趣味ではなかった。しかし立ち去りたくても動けないのだ。二人がいる場所は、納戸に唯一取り付けられているドアの真ん前。つまり元々納戸の奥にいて探し物をしていたレイリーの出口の前で、二人はいちゃいちゃちゅっちゅべろべろとしている。何故ここを選んだと声を大にして問いたい。いっそ見つかってしまえばこれ以上事が発展する前に退散出来るのだろうが、シャンクスはまだしもなまえは邪魔をしたらどんな理不尽さでもって報復をしてくるものか。触らぬ神に祟りなしだ。レイリーはおとなしく待つことにして、二人から死角になる棚の影に身を預けた。

「ん…、や、もう、」
「シャンクス、もっと」
「やだ…口ん中、とけそう」
「とけねェよ、ばか」

肌が粟立つくらい艶やかな声で、なまえはキスをねだる。シャンクスは本当にとけてしまったかのようなとろとろとした声色でぐずって、それでも実際拒むこともせずまた舌を擦り合わせる水音が聞こえ始めた。長い。キスだけで何分するんだ。

「や、なまえさ、も…ちんこ、いたい…」
「抜いてやるから、もう少し」
「あ、」

衣擦れの音。シャンクスが息を飲む声がして、空気がさらに卑猥なものになる。おいおい、子供相手にどこまでやるんだお前。まさか本番まではいかないと踏んでいたが、キスだけで済まなさそうな雰囲気にいよいよこれは中断させるしかないかと腰を上げる。棚から顔を出したレイリーの目に、なまえの視線がばちりとかちあって心臓が握られたように締め付けられた。
    お前、気付いてたのか。
左手でシャンクスの後頭部を掴んで執拗なほど唇を貪り、右手はレイリーから死角になるシャンクスのズボンの中をごそごそとまさぐっている。しかし視線だけはじっとレイリーの方を向いていた。その目の意味が、お前そこで何してるという威嚇なのか、邪魔をしないでそこで待っとけという制止なのか、それとも単にラブシーンを見せ付けているのかわからない。何せ悪趣味な男だ。もしかしたらレイリーがここにいると分かっていて、わざと納戸に入ってきた可能性だとてある。

「ぅ、っ、   っ!」
「…イッたか?」
「うる、さ…わかるだろ…」
「ああ、手ェどろどろ」
「うるせェ!」

レイリーのいる方に背を向けているシャンクスは、第三者の存在に気付いていない。耳を髪と同じくらい真っ赤にして、遠慮なくなまえの頭や顔を叩いている。しかしすぐに大人しくなると、恥ずかしそうに小さな声で「なまえさんは?」と言い出した。

「ん?」
「いいのかよ、その…」
「…なに、お前が抜いてくれんの?」
「だって、不公平だろ」
「ふーん」
「にやにやすんなよ!」

あんな誘い文句まで受けたら直ぐさま突っ込んでもおかしくなさそうなものだが、なまえは照れてぷんすか憤るシャンクスに触れるだけのキスを何度も落として宥めたかと思ったら、あっさりと解放して納戸から追い出してしまった。しんと沈黙が漂う空間。床を鳴らした靴の音はよく響いて、なにも悪いことをしていないはずのレイリーを落ち着かない気分にさせる。やがて迷いのない足取りでレイリーのいる棚の影に顔を出すと、にんまりと笑ってレイリーを罵った。「レイリーのえっち」。なにがえっちだ。ヘンタイめ。

「ふざけるなお前…部屋でやれ部屋で」
「だって我慢出来ねェし」
「そんながっつくような歳でもないだろう」
「おれじゃなくて、シャンクスが」

にやにや。なんと嬉しそうな笑顔。レイリーは溜息をついてなまえの頭を小突いた。

なまえとは同郷の生まれでお互いの若い頃も知ってはいるが、海に出る前のなまえはまだ幼さの際立つ可愛いらしい子供だった。レイリーお兄ちゃん、と無垢な笑顔で後ろをついてきて、それなりに可愛がったのを覚えている。
しかし十年も経った頃に再会したなまえは、幼さどころか可愛いげもなくなって、とんだ悪魔のような男になっていた。
「レイリー勃ってねェよな?シャンクスの声で勃ってたらひきちぎるけど」。こんな恐ろしいことを身内に対して本気で言うのだから、手に負えない。シャンクスはこの男の毒のような色気に喰われてしまったのだろう。哀れなことだ。

「…お幸せにな」

レイリーは嫌みや皮肉のつもりで言ったが、なまえは珍しく目を丸くして、それから本当に珍しくいやらしさのない笑顔でにこっと笑った。何十年ぶりかの無垢な笑顔だ。なまえがまだ可愛いげのあった頃を思い出して、レイリーはついもう一度「幸せにな」と言い直した。幸せになってほしいと、この悪魔のような男に対して本気で思ってしまったのだ。


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