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若さとは斯くも恐ろしいものか。

2番隊の隊長に就任した期待のホープことポートガス・D・エースは、近頃どうやら熱に浮かされているらしい。エースの能力や、病などかかりそうもない健康優良児っぷりを知っている奴には、火拳が熱などと馬鹿なことをと鼻で笑い飛ばされてしまうだろうが、残念なことに原因は悪魔の実やウイルスなんかではない。
病は病でも、恋の病だ。エースの熱の正体は。

「なまえ、こっち向けよ」
「…なに」
「いいから」
「おれ飯食ってんだけど」
「おれ見ながらでも食えるだろ」

確かに。
おれは食事の乗るプレートから視線を上げ、エースの熱っぽい瞳と目を合わせた。若くてかわいい女の子ならまだわかるが、自分より年上でかわいげも何もない男と見つめ合って何が楽しいのだろうか。おれにはさっぱりわからないが、エースは火の粉を散らして嬉しそうに笑うから、まァいいかとエースにつられて笑みが零れる。すると火の粉は炎に代わり、自分からおれを見ろと言ったくせにエースはテーブルに突っ伏してじたばたと足を暴れさせた。今のどこにそんな悶える要素があるというのか。些細なことにも反応してしまうから、若さというのは恐ろしい。


    エースの恋の病。
病原体はどうにもおれのようだ。

わかりやすすぎて最初は冗談か策略かと勘繰ったものだが、一週間、一ヶ月、半年と続くエースのアプローチは本気すぎて疑いようもないほどあからさまだった。「なんでおれなんか」。エースに直接聞いたこともある。彼は少なくともゲイではないようだから、それは当然の質問だろう。しかしエースはさも心外だとばかりに、「なんでって、好きだからだよ」と解答にもなっていない返事をしたのである。その時の顔が真面目で、全身は火が出るほど赤く、剥き出しの左胸へ引き寄せられた掌で異常なほど弾む鼓動を確かめたものだから、嘘ではないのだろう。だとしたら尚更問いただしたい。なんでおれなんか。

「あーもう、あんたのその顔、すごい好き…っ!」
「うーん」
「わけわかんねェって顔してるな」
「うん」
「わかんねェ?」
「うん」
「何度も言ってんのにな」
「そうだな」
「好きだ」
「ああ」
「なまえが好きなんだ」
「そうか」
「他の誰にもやりたくない」
「うん」
「おれのこと、好きになってくれよ」

まっすぐでキラキラと輝く瞳が恐ろしい。熱に浮かされた視線は直視しづらく、けれど真摯な気持ちは適当に流せない。惜しみなく零れる告白を塞いでしまおうとフォークで刺した魚をエースの唇に押し付ければ、また発火。真っ黒焦げになった魚を、それでもエースはかじりついて赤い顔でおれを睨みながら飲み込んだ。「そういうこと、誰にでも簡単にするなよ」。エースの言う「そういうこと」なんか、実際大したことじゃない。それでもエースにとってはおれの些細な言動が火をつけたりするのだから、おれはどうしたらいいのかもわからずエースの目が怖くなってしまうのだ。じりじりと焦がれる視線に曝されて、それでも曖昧な態度をとってしまうのは卑怯だとわかっている。切り捨てることも受け入れることも中途半端で、いつしかこの情熱的な炎に飲み込まれそうだ。

おれはエースの若さが怖い。
ほだされて好きになってしまいそうなのが、一番怖いんだ。

「…そんな困った顔すんなよ」
「んー、うん」
「……おれだって困る」
「ん?」
「あんたのこと好きすぎて、困ってる」

はにかむ顔が、燃えているわけでもないのにひどくまばゆい。

お前、なんでそんなに可愛いんだよ。エース。


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