50000 | ナノ


我らが船長は何が楽しいのか、暇さえあればベタベタとおれに引っ付いてくる。引っ付いてくるだけならまだしも、ぺたんこの胸を揉んだり耳に息を吹き掛けてきたり、はたまた昼寝をしているといつの間にか上に乗っかって体をまさぐられているということが日常的にあるのだ。やめてくれと言ってもニヤニヤ、逃げようとしても能力で足を切り取られてニヤニヤ。結局は船長の思うままに弄くられて玩ばれて疲れ果てるまで相手をしなくてはいけないのだから、いくら慕っている船長といえどうんざりだった。

お前嫌がるから余計構われるんだよ、とはシャチの助言だ。確かにサディストの気性がある船長は、おれの歪んだ表情を見て楽しんでいる節がある。本気で怒ったってニヤニヤしているのだから、ならばと無視してみればここぞとばかりに触られて最終的には無視が出来なくなる。手の打ちようがなくて心底困っていたのだが、いっそ同じ思いをさせてみればいい、というペンギンの案に目から鱗が落ちた。成る程、引いてダメなら押してみろ、だ。


    今日は逃げねェのか?」

ニヤニヤ。今日も薄ら笑いを浮かべた船長は、ソファーに横たわって新聞を読んでいたおれの腹の上で機嫌良さそうに腰を揺らしている。最初はいつものように無視してみようと試してはみたものの、暴れないのをいいことに船長はおれのツナギのチャックを開け、素肌に指を這わせ始めた。ぞわぞわ、皮膚が粟立って寒気が走る。やはり新しい手を試すしかないようだ。
新聞を畳んでテーブルの上に放り、船長を腹の上に乗せたまま上半身だけ起き上がらせた。

「お」
「あんたはまったく、いっつもいっつも…!」
「なんだ、やるのか?」
「誰が船長とやりあうかよ」
「ふん、つまんねェな」

脚を掴んで引っ張ると、今度は船長の上半身がソファーに転がる。後を追うように覆い被さったおれは、反射的に顔を逸らした船長の顎を掴んで耳に息を吹き掛けた。

「っあ」
「くすぐったいだろ」
「は、…大胆だな」
「馬鹿言え。いつもあんたがおれにやってることだ」

2億の賞金首とは思えないほど細い手首を片手で押さえつけて、首筋をぺろりと舐めた。船長の肩が震える。「これも」。服の上から胸を噛む。「これも」。空いた手で体の輪郭をなぞる。「これも」。

「全部、あんたがおれにやることだ」

知ってるだろ、と耳元で声を低くして囁けばおれの胴を挟んで開いている船長の脚が強張って震えた。さぞかし嫌がってるだろうと覗き込んでみた船長の顔、は。

「…すげェ赤い」
「うるせ…」
「…くすぐってェの?」
「うるせェ…」
「…恥ずかしいの?」
「うるせェ!」

くわっと歯を剥いて吠えた船長は、けれど目元が可愛らしく染まっているせいでいつもの迫力がない。ぞくぞく。背筋に走るのは、普段船長に触られて感じるようなこそばゆい感覚ではなかった。純粋な腕力ではおれに勝てない船長が、おれの下でかわいい顔をして悔しそうに唸っていることに対しての満足感だ。「参った」。呟いたおれに、船長がなんだよとばかりに眉をひそめた。

「船長におれと同じ思いをさせてやろうと思ったのに」
「ふん、仕返しのつもりか?」
「おれが船長と同じ思いをしてるみたいだ」
「は?、っあ!」

臍の下をぐるりとなぞって、粟立った肌に唇を這わせる。面白いくらいびくびくと跳ねる船長の反応に、ひどく興奮した。

    成る程、船長はこれをおれで楽しんでいたのか。

「まァ、たまにはいいよな、おれにも楽しませてくれたって」
「なっ、んの、はなし…っ!」
「おれも船長の娯楽になってばかりじゃないってこと」
「あ、あ、あっ」

船長の肌に噛みついて、吸いついて、場所を変えて噛んで、吸って。繰り返すだけで玩具みたいに船長は反応する。かわいい。楽しい。面白い。

「てめェ…っ」
「自業自得だ。仕返しされるくらいおれに構わなきゃ良かったのに」

歪んだ唇に、隈も薄くなるくらい赤く色付いた目元。震える肌と荒い息遣い。こんなのが癖になったら、あんたのせいだよ。船長。


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