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マルコとなまえが付き合うようになったとはいえ、一見して大きく変わることはなかった。どちらかと言えば、いつも通りに戻っただけのような気もする。
マルコは一番隊の隊長として隊員の世話や指令役をこなし、なまえはそのサポートを行う毎日。遠回りな恋物語に巻き込まれた分、思いっきりからかって遊んでやろうぜ!と意気込んでいたサッチやイゾウが肩透かしを食らうほど面白味のない光景だ。

「なー、マルコのとこ行かなくていいのかよ」
「…なんで?なんかあったっけか」
「いやほらさァ、折角平和な島にいるんだしよ、誰にも邪魔されず恋人との甘ァ〜い一夜をだな…」
「馬鹿言うなよサッチ。がっつくような歳でもあるまいし。おれ達のことはいいからどっか遊んで来いよ」

気持ちが通じただけでも十分というのか、あれだけお互いの一挙一動に一喜一憂していたのが嘘のように落ち着いてしまった。サッチにはそれが面白くない。煽ってもなまえは苦笑いで済ますばかりだ。

マルコが部屋にいなかったので、もしやこれは二人でイイコトでもしているのかと思いきや、なまえは一番隊の大部屋でたった一人ボーッとしていた。他は皆遊びに行ってしまったらしく部屋には誰もいない。つまり一番隊員が船内で問題を起こしてマルコが駆り出されることもないのだから、これはチャンスもチャンス、団体生活の中で二人きりになれる大チャンスだろうに。マルコはどこに行ったのかと聞いても知らない、探さなくていいのかと言っても何故だと首を傾げる始末。冷めた様子のなまえは、もしや恋人という肩書きを持っただけでもう満足してしまったのか。サッチに彼女がいたならばここぞとばかりに恋人一色の夜を過ごすのだが、なまえの足は冬島の低い気温に対する厚手の毛布を何枚も掛けていることから見ても動く気はないようだ。余裕ぶりやがって。痴話喧嘩が勃発しても絶対に助けてやらん、とサッチは誓った。

「お前本当にマルコのこと好き?」
「…サッチはおれにそんなこと聞き出してどうしようってんだよ。いいからさっさとどっか行けって」
「苦労してくっつけた奴の気持ちも理解しろよ。遊ばせろよ。楽しませろよ!」
「うわァ最低」

「おっさん同士の恋バナなんて気持ち悪いだけだろ」。自虐的に笑ったなまえは、視線を足元の毛布に落とすと沈黙した。けれど微か間を空けると、「…好きだよ」と恥ずかしそうに漏らす。聞いているサッチが恥ずかしくなるくらい真剣な声だ。

「…マルコにムラムラすんの?」
「おま…サッチ…お前…」
「すげェ顔真っ赤」
「……っ」
「なァなァすんの?ムラムラすんの?」
「す、する…」
「えー、じゃあなんで襲いに行かないの?なァなァなんで?」
「お前…っ本当にいい加減にしろよ…にやにやすんな!」

近くにあった枕を投げ付けられて、サッチはそろそろ怒らせてしまう頃合いかと引き際を悟った。「マルコ見付けたらなまえがムラムラしてるから行ってやれって伝えてやるよ!」。流石にここまでからかったら殴られるかと思ったが、なまえは足元の毛布をぐっと掴んで悔しそうに顔を歪め「ばか!」と罵るばかりで、軽やかな足取りで逃げていくサッチを追いかけようとはしない。マルコと違って寛容だ。いや、ただ単に寒いだけなのかもしれない。足に何枚も毛布を掛けて、もしかしたら中には温石でもいれているのか膨らんでいた。これはますますマルコを探して送ってやらなければ。一人寝はさぞかし寂しくて冷えるだろう。

下世話なお節介を計画するサッチには見えていなかった。なまえの足元、膨らんだ毛布から微かにはみ出た金髪が。


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