「今日の夜、空いてるか」
唐突な誘いを受けて、エンヴィは書類をスモーカーに手渡しながら「うん」と頷いた。「飯でもいかねェか」。断る理由などない。大歓迎だ。エンヴィは嬉しくなって、「ウチに来る?好きなもの作ってあげるよ」と口元を緩ませながら、スモーカーのサインが記された書類を再び受け取った。
「それも悪くねェな」
「魚?肉?」
「…肉」
「今ウチにいいラム肉があるんだ。スモーカーくんが好きな焼酎もこの間手に入った。帰りに少し野菜を買って、サラダとスープも作ろう」
「悪くねェ」
頷くスモーカーは無表情でも、エンヴィの胸は弾むばかりだ。彼から誘ってくれるなんて、一体いつ以来だろうか。にっこり笑って待ち合わせの時間と場所を告げようとしたエンヴィに、しかしスモーカーは今更奈落へ突き落とすようなことを言う。
「たしぎも連れてって構わねェか」
「またなんかうじうじ悩んでやがんだ、あのトロ女」。淡々とスモーカーは続ける。要するに、話を聞いてやってほしいのだろう。
スモーカーは相談役や、悩みを引き出すというのを不得手とする。心根は優しい癖に、アプローチが不器用なせいだ。その点エンヴィは優しそうな顔のつくりをしているおかげか、うんうんと頷いて相槌を打つだけで相手が勝手に愚痴も悩みも溢してくれるという特性があった。これは紛れもない長所ではあったが、今ばかりは無用の長物だ。
スモーカーからの誘いは勿論、二人きりで会うことすら久し振りだというのに、スモーカーは恋人との逢瀬にあっさりと第三者を潜り込ませる。またか、と諦め半分落胆半分、エンヴィは「いいよ、もちろん」と請け負った。スモーカーにデリカシーがないことくらい、とうの昔にわかっていたことだ。
覚悟はとうに出来ていた