スモーカー長編 | ナノ



遠征で擦れ違い、上手くエンヴィにもスモーカーにも会えなかったヒナは、廊下の曲がり角で特徴ある背中を見付けて思わず叫んだ。「スモーカーくん!!」。呼ばれた本人はあっさりと足を止めて、いつも通り不機嫌そうな顔で振り返る。しかしその顔が標準の表情だと知っているヒナは、物怖じせずにむしろ威圧的な態度でスモーカーに近寄っていった。

「ようやく会えたわスモーカー君!ヒナあなたに言いたいことが…!」
「エンヴィのことかよ」

次から次へとまくし立てようと開いた口は、スモーカーの鋭く核心をつく名前の出現で途端に落ち着いてしまった。

「……気付いたの?エンヴィが何を思っていたか」
「本人からな」

なんだか拍子抜けだ。しかし事が上手く収まったのであれば、ヒナは文句などない。スモーカーの苦く歪んだ表情から察するに、一悶着はあったが丸く収まったというところだろう。エンヴィの顔を見るまでは安心出来ないが、ヒナはホッと胸を撫で下ろした。

「まあ、ちゃんとエンヴィ自分で言えたのね…ヒナ感心」
「いちいち首突っ込んでくんじゃねェよ」
「ちょっと、まさかあなたエンヴィにもそんな風に言ったんじゃないでしょうね!」
「言ってねェ」
「…そう、ちゃんと話し合ったのね?」
「ああ」
「エンヴィは?」
「もう隠し事はしねェとよ」
「…そう、ヒナ安心」
「……迷惑かけたな」

珍しく殊勝なスモーカーの謝罪に、ヒナは口の端を上げて笑った。どうやら本当に丸く収まったようだ。エンヴィの顔を見るのが楽しみになってきた。スモーカーの話が何の齟齬もなく事実であるならば、きっと彼はとても幸せそうに忙しく働いているに違いない。

「あら、今更?いいのよ、エンヴィが美味しいケーキ作ってくれるもの。今度買い物にも付き合ってもらうのよ」
「…あいつに余計なちょっかい出すんじゃねェぞ」
「あら、あらあら!それは嫉妬かしら?ヒナ驚愕!あなたがそんなことを言うなんて!」

ヒナの揶揄にスモーカーは「うるせェな」と今度こそ本当に不機嫌そうな顔になって、話は終わりだとばかりに背中を向けて歩き出した。確かに話は終わったのだから構わないのだが、ヒナはその姿に違和感を覚えてもう一度スモーカーを引き留める。おかしいのだ。明らかに不自然である。右足を微かに引き摺って、腰を庇うような歩き方をしていた。

「…スモーカー君、あなた、歩き方がおかしいわ」
「…うるせェな」
「怪我でもしているの?これからG5に行くっていうのに、先行き不安ね」
「うるせェな」

ヒナの心配に、スモーカーは一辺倒の可愛くない返事ばかりだ。ムッとして少しきつく言ってやろうかと口を開いたヒナは、しかしスモーカーの足元から顔に視線を移して、また驚いてしまった。

「スモーカー君、あなた顔まで赤いわ」
「…うるせェな」
「まさか風邪?あなたに限って?」
「うるせェっつってんだろ!!」
「なんで怒鳴るのよ!ヒナ不服!」


理解力に欠けます


- ナノ -