丸々と太らせて、食べてしまう行為に似ている。
テーブルに並べた料理を残さず平らげたスモーカーは、何てことはないふりでシャワーを浴びて寝室に入っていった。寝てしまうことはないだろうから、エンヴィも片付けを終えてからシャワーを浴びてスモーカーの後を追う。
「スモーカーくん」
寝室は暗かった。明かりを付けると、スモーカーはエンヴィに背中を向けて横たわっている。セックスをする時、彼はいつだってそうだ。
「スモーカーくん」
ベッドの上に膝をついて、柔らかく呼び掛ける。肩に手を掛けると緩慢な動作で顔がこちらに向いて、少しだけ不機嫌そうに眉が寄った。
「…消せ」
「うん?」
「…明かり、消せ」
「消さなきゃダメ?」
ダメかと聞けば、ダメだと言われたことなんかない。エンヴィが譲らないことスモーカーが折れることもいつもの繰り返しなのだから、いい加減省けばいいとは思うのだが、彼にとってはこの定例の会話も準備のひとつなのかもしれない。それなら何回でも付き合おう。エンヴィにも準備がある。ベッドサイドの引き出しから取ったのは、海楼石の枷だ。
スモーカーがロギア系の能力者であることは、エンヴィにとって幸いであった。「えっちの最中に煙になってしまったら、そりゃあもう、とても困るからね」と仕方なくを装った態度でスモーカーを拘束することが出来るからだ。
海楼石の手錠や首枷をつけたスモーカーは、能力を使えないどころか全身に力が入らない。まるきり無防備な姿でベッドに転がるしかないスモーカーを見て、エンヴィはひどく興奮するのだった。生殺与奪の権利すら、今は自分のものであると。それでもエンヴィに身を任せて何の危機感も覚えていない様子のスモーカーが、とても愛しくて、とても酷いことをしたくなる。
逞しい体に手を這わせて、気が済むまで舌でねぶって、声を我慢する口から悲鳴にも近い嬌声が溢れてしまうまで焦らして、苛めて、快楽漬けにして、スモーカーがスモーカーとしての体裁を保てなくなるくらいスモーカーの頭をとろとろに溶かしてしまうのが好きだ。女のように喘ぐ低い声がたまらない。理性が剥がれるまで追い詰めてねだらせるのはもちろん、「もうやめろ」と甘ったれた声で拒まれても止めてやったことはなかった。歯形やキスマークも全身にくまなく付ける。一日だけでも、一晩だけでも、この体が自分のものであると主張したいのだ。
散々好き勝手して弄んで、スモーカーの矜持を粉々に砕いている行為であることはわかっていた。それでもスモーカーは、翌朝エンヴィを責めたり拒んだりしない。エンヴィのセックスが異様で一方的だと知っているはずなのに、何も言わずに受け入れてくれる。それはスモーカーなりの愛情表現だとわかっていたから、エンヴィはスモーカーを抱いている時だけ心の底から安堵出来た。
スモーカーは昔から、同性愛者に好かれやすい外見をしている。まだ新米の海兵だった頃から反抗していたせいもあってか、男の上司に好意半分嫌がらせ半分で体を触られることも少なくなかったようだ。その度に容赦なく殴り飛ばしていたのだから尚のこと生意気だと睨まれる原因になるのだが、エンヴィとてスモーカーがベタベタ触られることも、性的な目で見られることも我慢できない。陰ながら制裁を手伝った記憶はまだ新しいものもあるが、スモーカーどころか誰にも気付かれずに地獄へ落としているのだから我ながら陰険だ。
お前にしか触らせねェよ、と。スモーカーは一度だけエンヴィに言ったことがある。照れ臭そうな、恥ずかしそうな、スモーカーにしてはとても珍しい表情をしていた。今はもう随分と昔になるそのたった一回の一言をエンヴィは宝物のように大切に胸にしまっている。スモーカーに愛されていると自惚れることの出来る唯一だ。
ひどいセックスを強いるようになってしまったのはその後からかもしれない。決して気安くはないスモーカーの体に触れて、嫌がられないのをいいことに散々弄んで、それでも許されることで安堵している。ひどい話だ。エンヴィにとってセックスは快楽のための行為ではない。スモーカーの気持ちを知っておくための、暴力にも似た確認作業だ。
この薄汚い感情に愛と名付けたのは私