スモーカー長編 | ナノ



立て続けに入った任務を終え、3週間ぶりに本部へ戻ったスモーカーは中庭のベンチに腰掛けて葉巻を吹かしていた。提出しなくてはならない報告書がまだ手元にあるのだが、何も急ぎのものではない。一息入れてからでも遅くはないだろうと思っていたところへ、スモーカーの元に人影が近付いてきた。それが誰だか、見ずともわかる。おかげで報告書の提出は予定よりも早くなりそうだ。

「…おかえり、スモーカーくん」
「おう」

静かな声と柔らかい笑顔で、スモーカーに声を掛けたのはエンヴィだった。前回補給のためだけに本部へ戻ってきた時には会えなかったので、実に一ヶ月以上ぶりの再会だ。スモーカーは久々のエンヴィをじっと見つめながら、報告書を差し出した。提出先はどうせ彼だ。「行く手間が省けた」。何の気なしにそう言えば、エンヴィは困ったように笑う。

「ひどいな。おれはスモーカーくんが帰ってきたと聞いて、君が来るのを執務室でずっと待っていたのに」
「嘘つけ」
「本当だよ。なのに君と来たら中庭で悠々と休憩してるんだもの」
「悪いか」
「……いいや、君らしいよ」

遠征お疲れさま、と労う声が、なんとなく疲れを孕んでいる。「何かあったか」とスモーカーは聞いたが、エンヴィは首を振って「何も」と答えた。何もないことはないのだろうが、スモーカーはそれ以上追究しない。エンヴィにはエンヴィの悩みや苦労があって、スモーカーに助けを求めていないのに首を突っ込めばそれはただの余計なお世話だ。
「そうか」の一言で会話を終わらせたスモーカーの隣に、エンヴィは腰を下ろして受け取った報告書に目を通し始める。久々の再会だが、ローグタウンに勤務していた頃を考えれば半年や一年も会えないなんてことはざらにあった。それを思えば、今の環境のなんと贅沢なことか。手を伸ばせば掴める距離にエンヴィがいるだけで、実際に手を伸ばさなくともスモーカーは満足していた。

「…スモーカーくん、明日は非番だっけ?」
「ん、ああ」
「おれも非番なんだ」
「…ああ」
「ウチ来る?」
「…別に、どうでも」

歯切れが悪くなってしまうのは、誘いの意図に気付いたからだ。エンヴィとスモーカーは、一応、恋人同士である。となれば自宅に誘う意味などひとつしかない。セックスだ。いまだにエンヴィとの行為に慣れないスモーカーは、どうしても素っ気なくなってしまう。けれどエンヴィは笑って、からかうようにスモーカーの肩を小突いた。

「心配しなくても、優しくするよ?久々だものねェ」
「……嘘つけ」
「うん、まァ、嘘だけど」

さらりと覆された宣言に、スモーカーは葉巻を落としそうになった。「ウチ来る?」。繰り返される問いはもはや念を押しているようだ。好きにしろ、と答える以外、スモーカーにはどうしようもなかった。


ねえ馬鹿な君、僕がどれだけ


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