結局歓楽街には行かなかった。不機嫌なスオウさんに怯えた先輩達が一層頑なに連れていってくれなかったのもあるが、なによりおれが行く気にならなくなってしまった。変なの。スオウさんの不機嫌は、単に寝起きとか、酒の飲み過ぎとか、それだけに決まっているのに。こんなにも気になってしまう。
「やあシャンクス、スオウをフッたんだって?」 「…レイリーさんまで、そういうこと言う」 「わははは!まァそうむくれるな!」
夜の海を眺めていたら、酒瓶を片手に持ったレイリーさんがおれの隣に並んだ。話題はやっぱりスオウさんのことだ。スオウさんは過剰に反応するからいけないというが、こうまでしつこくされたら嫌にだってなる。だってあの人は、本当におれを好きなわけじゃない。誰にでも手を出す節操なしで、たまたまその中でもおれが気にいってるだけの話だ。
「おれスオウさんやだ。馬鹿にしてからかって、おれで遊んでんだ」 「まァそう言ってやるな。あれは素直じゃないやつでな」 「……えー」 「わははは!信じられないか」 「うん、信じられねェ。あの人やりたい放題だし、言いたいことなんでも言うし」 「そうか、シャンクスにはそう見えるか」
「なら、そうだな」。企み顔で笑ったレイリーさんは、顎を撫でながら言った。
「今度キスされそうになったら言ってみるといい。「おれにはレイリーさんがいるから」ってな」
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