シャンクス長編 | ナノ


甲板掃除をしていると、船内からげらげらと盛大な笑い声が聞こえてきた。「掃除をサボる悪い子にゃピエロの刑だァ!」。
おおかたスオウさんがバギーにお仕置きと称したいつもの悪戯をしてるんだろう。赤い大きな鼻に合わせて、唇を大きくはみ出して塗られた口紅。笑い者にされたバギーはいつもわなわなと震えて涙ぐんでいるが、最終的には「よしよしバギーはいい子だ反省したな?ちゃんと掃除が出来ると約束するならお小遣をやろう」なんて甘やかされるんだから、叱られて悪いことばかりなんて言えたもんじゃない。
やがてほくほくしながらデッキブラシを持って甲板に出てきたバギーは、おれの方を見てにんまりと笑った。あ、こんな顔、サーカスとかで見覚えがある。芸をする道化が、どうだと言わんばかりに見せる顔だ。

「10万ベリーももらっちまった。やんねェぞ」
「いらねェよ」

スオウさんは優しい人だとは到底言えない。誰彼構わず悪戯するしセクハラもするしニヤニヤ笑って馬鹿にする。敵になんか尚更容赦がない。だけどおれ達見習いには甘いところがあって、たまに小遣いをくれたり褒めてくれたりするから、怖いとか嫌いとか、そんな風に思ったりはしなかった。
「まァ、おれが一番スオウさんに可愛がられてるからなァ」なんて優越感でバギーはニヤニヤ笑っているが、その唇にべったり塗られた口紅は綺麗に整ったままだ。

おれは、スオウさんに関してひとつ気づいてることがある。
確かにスオウさんは誰にでも悪戯するしすぐにサボるバギーにも甘いところはあるけれど、キスだけはおれ以外してないみたいなんだ。これはまだ、バギーは知らないこと。



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