スオウはロジャーの前だと割合素直になるから、何か聞きたいことがあるならロジャーの近くで聞いてみるといい。
とレイリーさんに教えてもらったので、なんだか釈然としない気分になりながらもロジャー船長と呑んでいるスオウさんの背後に忍び寄る。ついでに驚かせてやろうと思ったけど、船長にあっさりと「どうしたなんか用か!」と声を掛けられてばれてしまった。それでもスオウさんは振り向かなかったから、最初からばれていたのかもしれないけど。
「スオウさんに聞きたいことがあって」 「なんだ、聞け聞け!」 「なんでロジャーが言うんだよ」 「いいじゃねェか答えてやれよ!」 「…まァ、いいけど」
なに、と座ったまま応えたスオウさんの肩に寄り添うようにして立つと、珍しくおれが見下ろす形になる。あっさりと質問を許可したスオウさんは、レイリーさんの言った通り、いつもよりちょっとだけ素直なようだ。それが少し面白くなかったから、意地悪なことを聞いてやろうと思った。
「…あのさ」 「ん」 「あんた、おれが好きだって言うけどさ、おれが他のやつ好きだったらどうするの」
スオウさんが何か言う前に、ロジャー船長がげらげらと笑い出した。スオウさんはそれを忌ま忌ましそうに見ながら、それでも怒ったりしないで、おれの腰を引き寄せて自分の脚の上に乗せる。子供みたいに向き合って抱っこされる体勢は恥ずかしくて嫌だったけれど、近くなったスオウさんの顔は真剣だったから我慢した。
「…他の女が好きならそれはそれで構わない。お前だって男なんだ、それが普通だろう」 「ふーん…そしたらもう、キスもさせてやんねェかもよ?」 「しねェよ。だから女が出来たら、おれに言えよ」 「…うん」
兄のように優しく笑っておれの髪を撫でるスオウさんに、なんだか寂しい気持ちになる。好きなやつがいたって関係ないとか、お前はおれのものだとか、そういうことを普通に言うんだと思っていた。聞きたいことを聞けて、おれのことを一番に考えた答えを出してくれたのに、なんだか納得がいかない。不思議な気分だ。 するとまだ笑っていたロジャー船長が、「女はいいなら、男ならどうなんだ!」とからかう気満々の調子で聞いた。スオウさんのことを見透かされたのかと心臓が跳ねたけど、男なんて好きにならない、とおれが反論するより先に、スオウさんが優しい表情から一転、真顔になってしまったので口をつぐむ。ロジャー船長からも、おれからも視線を外したスオウさんは、どこを見ているかわからない据わった目で、けれどはっきり、言った。
「…殺すかな」
本気の声に、ぞっとする。 心底肝が冷えたけど、船長は一層げらげらと笑い出したから、スオウさんが言ったのはおそらくおれのことじゃないんだろう。だけど本気だ。それが解るとなんだか急に恥ずかしくなって、おれはスオウさんの膝の上から降りてその場から逃げ出した。なんだよ、もう。顔が熱い!
|