「…なんだそれ」
スオウさんが訝しげに聞いたのは、おれが抱えたクッションのことだ。真ん中に穴が空いているが、別にボロなわけじゃない。 「バギーにもらった」と言うと、スオウさんはますます不思議そうに目を細めた。それはそうだ。今日はおれの誕生日や何かの記念日ではないし、バギーに物をもらうこと自体が珍しい。というより、初めてだ。 バギーから気まずそうに渡されたこのクッションが、どういう意味を持っているのかスオウさんはまだ気付いていないらしい。
「勘違いされてんだよ」 「勘違い?」 「昨日、スオウさんが夜におれを連れ出したから」 「…ああ」 「とうとうケツ掘られたんだろって」 「…はっ」
鼻で笑った。 明らかに馬鹿にしたような態度で口元を歪めたスオウさんは、おれからクッションを取り上げるとまじまじ眺めてもう一度鼻で笑う。
「で、円座クッションな。バギーも優しいじゃねェか」 「優しいもんかよ。根掘り葉掘り聞いてきやがって」 「答えてやったか?とっても優しくしてくれましたって」 「馬鹿!」 「馬鹿とはなんだ馬鹿とは」 「ますます勘違いされんだろ!」
おれが手を振り上げて怒ると、スオウさんは楽しそうに笑ってクッションをおれの顔に押し付けた。「勘違いじゃなければいいのか?」。また馬鹿げたことを言う。そんな気、これっぽっちもないくせに。
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