夢の中から引きずり出される夢を見た。と思ったらそれは夢ではなくて、実際におれは誰かの手によってボンクの中から引きずり出されている真っ最中だった。なにごと。寝ぼけ半分、驚きで開いた口は声が出る前に柔らかい何かで塞がれる。目の前には人の顔。落ち着いた頃に離されてようやくそれが誰かわかった。スオウさんだ。
「…スオウさん?」 「ああ、おはよう」 「ん、おはよ…今、キスした?」 「した」 「なんで…」 「お前騒ぎそうだったから」
手で塞げばいいんじゃないのかとも思ったが、スオウさんの両手はおれの脇腹に回っておれを持ち上げていた。じゃあキスするのも仕方ないか。うとうとと働かない頭で納得して、額をスオウさんの肩に乗せる。そういえば、なんでスオウさんがここにいるんだろう。下っ端に宛がわれた大部屋。まだ周りは薄暗くて、いびきや歯軋りが聞こえてくる。おはようなんて言う時間帯じゃない。「なんかあった…?」。まだ眠くてふにゃふにゃした声で聞くと、スオウさんはおれをどこかに連れて行こうとしながら答えた。「お前が部屋に来ねェから、迎えに来たんだよ」。 そうだ、スオウさんが不機嫌で、理由を聞こうとしてもタイミングが合わなくて聞けないまま夜になったんだ。おれが寝ようとした時間帯にもスオウさんはまだ部屋にいなかったから、今日は大部屋で寝ることにした。別にスオウさんとは約束をしていたわけじゃない。一緒に寝たのだって、スオウさんが二日酔いの時の昼寝を抜かせば昨日が初めてだ。なのにわざわざ、おれを迎えに来る理由がわからない。嫌じゃなかったんだろうか。嫌だったら、来ないだろうな。スオウさんのことなんて何にもわからないけど、嫌なことは嫌そうにするのは、なんとなくわかる。
「…おれ、スオウさんとこで寝ていーの?」 「嫌だなんて言ったか?」 「言ってない…」 「ならお前の好きにしろよ」 「うん…」 「寝てていいぞ、運んでやるから」
ボンクから布団と枕を回収して、スオウさんはおれを抱えたまま大部屋を出る。歩く度に伝わる揺れが心地良い。閉じかけた瞼の隙間から、バギーが恐ろしいものでも見るような目でこっちを見ていた。他にも、不自然なほど微動だにしない布団の塊とか、逆にうるさすぎるいびきとか。スオウさんも気付いてるだろうに何も言わなかったから、おれも気づかない振りをして目を閉じた。
「…そういえば、なんでスオウさん、機嫌悪かったんだよ…」 「もやもやする朝だったからな」 「…じゃあ、なんでレイリーさんにあんな…」 「おれの目の前をのうのうと歩いてるレイリーがいたら、そりゃ発散するだろ」 「………よくわかんねェ」 「そうか」 「…けど、スオウさんってサイテー…」 「そうだな」
喉の奥で笑う気配がして、機嫌が良いんだなと思った。ほんと、この人よくわかんねェ。
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