スオウさんのうなだれた背中が、らしくないなァと思った。おそらくは今朝のことで、船長に怒られたらしい。スオウさんはあれでいて船長には絶対服従の船長大好きな人だ。おれもそうだからよくわかる。船長と対等のような態度の下で、スオウさんは船長には絶対逆らわないし尊敬もしている。だから怒られたらしょんぼりとしてしまうんだ。気持ちはわかるけど、スオウさんらしくない。らしくないから、なんだか落ち着かない気分になる。
おれは静かな背中に近付いて、服の裾を引っ張った。振り向く眼は鋭い視線で、いつもにやにやしている様相とは大違いだ。それが少し怖いと思ったけれど、おれはスオウさんのズボンに手を突っ込んで、出て来た口紅を自分の口にぐりぐりと塗った。「…なにしてんだ、お前」。訝しげに聞くスオウさんに、真っ赤になってるだろう唇を蛸みたいに突き出した。
「キスしていーよ」 「あ?」 「元気出るだろ?」 「……どこでそんなこと覚えてきやがった」
にやっと笑うかな、と思ったスオウさんは、予想に反してすごく嫌そうな顔でおれを睨んだ。 あれ、怒ったかな。からかってると思われたかな。いつも通りのスオウさんになってもらって、それから朝の不機嫌の理由を聞こうとしただけなのに。 顔を歪めたスオウさんは、引いたおれの頭をわしづかんで、いつもよりずっと乱暴にキスをした。ぶちゅ、と音がする。苛立ちをぶつけるような荒いキスだ。
「…馬鹿なことすんな、犯すぞマセガキ」
低い声は本気だ。脅しを含んだ言葉につい謝ってしまったけれど、おれの目はスオウさんの唇に釘付けだった。強くくっついたせいでいつもより赤く染まっている。エロいな、と思った。もしこの人が本気でキスしたら、どんな顔をするんだろう。おれはそれが見てみたい。
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