シャンクス長編 | ナノ


空が白み始めた明け方になって、どやどやと船に戻ってくるクルーの足音が聞こえた。ベッドの中で夢うつつに耳を澄ませていると、その沢山の足音からひとつが部屋の前で止まって静かにドアが開く。微かな酒の匂い。床を打つ靴の音。長い指先が布団をめくって、膝がおれの腕に当たった。これが誰かなんて目を開けなくてもわかってる。寝たふりしようか何か言おうか迷ったけど、「おいシャンクス、寝たふりしてねェでそっち寄れ」とあっさり見破られてしまったからおれは瞼を開けてその人を見た。スオウさん。おれを部屋まで送ったら、さっさと飲み直しに行ってしまった。一人残されたスオウさんの部屋で、今頃もしかしたらあの女と、なんて一晩中もやもやしてたおれの気持ちなんか、この人はちっとも知らないんだろう。知ったところで、またニヤニヤ笑って馬鹿にするんだ。

「酔いは醒めたかよ」
「…んー」
「なんだ、二日酔いか?」
「…うん」
「今コックが二日酔いの奴らにスープ作ってるぞ。貰ってこいよ」
「んー、うん、いい」
「…珍しいな、そんなに辛いのか」
「んー…」
「かわいくおねだりすりゃァおれが貰ってきてやるぞ」
「…ベッド、気持ちいいから、まだ寝てたい」

ひゅ、とスオウさんが息を呑んだ。何だろうと見上げてみても、すぐに抱き込まれてしまって顔が見えない。「スオウさん、なに」。聞いてもただぎゅうぎゅう抱きしめられるだけだ。スオウさんの胸板に潰されたおれの鼻が、スオウさんから微かに甘い匂いを嗅ぎ取る。香水なのか体臭なのかわからないけど、それを吸い込むと頭まで痺れるみたいに気持ち良かったから、おれもスオウさんの背中に手を回してしがみついた。そうしたらスオウさんがまた息を呑む音がして、体が固くなって、合わさったところから心臓の音が聞こえてくる。酒入ってるからこんなにどきどきうるさいのかな。あたたかくって、気持ちがよかった。


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