「秋島の夜は寒ィな」
酒瓶を煽りながら独り言のように呟くスオウさんに手を引かれて、海岸をゆっくり歩く。おれが悪酔いしたと勘違いしたスオウさんは、楽しい酒の席に未練も見せずおれ達の船に向かっている。「お前、おれの部屋で寝ろ」。見習いに宛がわれた大部屋では安静に出来ないだろうから、とまでは言わないが、言わなくたって理解出来る。意地悪な顔をして本性は優しいこの人は、おれに特別甘ったるい。もはや気のせいなんかじゃない。だけど、なんのつもりかは分からなくて時折とても不可解だ。
「…スオウさん」 「なんだよ」 「いいのかよ、あのひと」 「誰」 「髪が赤い…」 「ああ、宿知ってるから」 「…行くの?」 「言ったろ、気が向いたらな」 「なんで、あんた好きそうな女なのに」 「そうだな、好きだよ」 「…好きなんじゃん」 「赤い色にな、興奮するんだよ。赤がよく似合ういい女だったな」 「…おれは?」 「ん?」 「おれにも、興奮すんの?」
スオウさんの顔を見上げると、月明かりが照らしていて表情がよく見えた。いつもの表情。意地悪そうににんまり笑って、おれをからかうための口が開く。
「興奮してほしいのか、エロガキ」
してほしい、って言ったら、あんたはどんな顔するのかな。
なあ、スオウさん。 おれ、あんたのことが好きなのかもしれないんだ。
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