町の酒場を貸し切りにして、むさ苦しい男どもが騒ぐ店内。ちらほらと姿を見せる女は誰かがどこかしらで調達してきたらしい。テーブルを回って酌をしながら、笑顔を振り撒いて場に華を添えている。 その中で一際真っ赤な髪の毛と唇に目を奪われた。しなやかで柔らかそうな女が、スオウさんに向かって誘いかけるように口や指先を動いている。何を話しているのか、ここからでは店の中の喧騒に紛れて聞こえない。「うお、超美人」。隣に座ったバギーが、酔っ払ったような声で呟く。「あれぜってェスオウさん誘ってんだぜ。くそ、あの人がどんだけ変態か教えてやりてェな」。男に口紅塗りたくって、見習いにキスまでするような節操無し。だけどそれを知ったって、大した問題ではないだろう。にやりと笑う口元が色気を孕んでいることは、男だらけのうちのクルーでも全員が知っている。あの人を見た女が色めき立つ様子だって、おれは何度も目にしてきた。
赤い女の指先がスオウさんの口元を撫でる。隣にいるレイリーさんは、からかうようにスオウさんを小突いた後、邪魔しないようにか離れていってしまった。二人きりの世界が作られる。嫌だなと思った。真っ赤な髪と唇。あの人はきっと、あんな女が好みなんだ。だからおれを代わりにして遊んでた。嫌だな。知っていたけど、なんか、嫌だ。
「あっ、おいシャンクス?」
バギーの呼び掛けには何も返さず、おれはスオウさんと女の方へ歩いていった。先にスオウさんが気付く。それから逸れた視線を追った女がおれを見て、「あら」と楽しそうな声を出した。
「珍しい、この子私と同じ髪の色だわ」 「そうだな」 「…スオウさん、」 「なんだ、どうしたシャンクス」
どうしたと聞かれても、返す答えを用意していなかった。黙り込んだおれに、スオウさんが真顔でおれの頭を撫でる。「気分が悪いのか」。顔を覗き込まれて目を逸らした。「外行くか」。返事をする前にスオウさんは椅子から立ち上がって、おれの肩を掴んで押す。慌てた様子で女がスオウさんの服を引っ張った。
「あっ、ねェ!どうするの?」 「気が向いたらな。あんま期待すんな」 「…もう!」
主語のない会話に背筋がぞっとする。スオウさんを見上げると、スオウさんはおれしか見ていなかった。「夜のお誘い。お前行くか?」。にやっと悪戯っぽく笑ったスオウさんが嫌だ。どうしようもなく、嫌だった。
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