新しい島に着いて、買い出しや情報収集に出ていくみんなの中にスオウさんの姿を見付けた。当番も行く宛てもなかったおれはその背中を追い掛けるが、なにもスオウさんと一緒に島を回ろうと思ったわけじゃない。この間スオウさんの部屋に入った時、レイリーさんから借りた鍵をレイリーさんに返そうとしたら、「ついでにそのままスオウに返しておいてくれ」と言われたからだ。スオウさん、と呼ぶ前にスオウさんは振り向いて、「なんか用か」と問い掛けてきたので直ぐさまポケットの中の鍵を突き出した。
「…なんだ?」 「なんだ、って、スオウさんの部屋の鍵だよ」 「…ああ、レイリーか」 「そう、そのまま返しといてくれって」 「ふーん、もうおれの部屋の本読み終わったのか?」 「…おれに聞くなよ」 「それもそうだな」
おれの手から鍵を取ってポケットに仕舞ったスオウさんは、そのまま踵を返してまた歩き出す。じゃあな、とか、またな、とか、別れの言葉を何も言わないから着いて行くのが当たり前のような気がして、おれもスオウの後に続いて足を動かした。その途端「飯行くか」と独り言みたいに誘われたから、多分正解だったんだと思う。
「…スオウさんの奢り?」 「なんだおねだりか。もっと可愛く言ってみ」 「馬鹿言ってんなよ」 「可愛くねェなァ」 「可愛いって言われても嬉しくねェし」 「ふーん、かっこいいって言われたい年頃か?可愛いな」 「はァ?」 「可愛い可愛い」
嫌がらせみたいな『可愛い』を連呼して、スオウさんの大きな手がおれの頭を撫でる。にやにや笑う顔に「馬鹿にしてるだろ!」と怒れば、スオウさんはおれの頬を両手で柔らかく挟んで、意地の悪い目でもう一度言った。
「お前はかわいい。かわいいよ、シャンクス」
表情はどこまでも胡散臭いのに、声が口説かれてるみたいに優しい。ぶわっと顔が熱くなったからスオウさんの手を振り払って俯くと、スオウさんはそのままおれの手首を握ってまた歩きだした。「かわいいから、飯くらいいくらでも奢ってやるよ」。そんな台詞、誰にでも言ってるんだろ。
|