ヤマイがローの部屋を覗くと、ローはソファーの上でぐったりと横たわっていた。まだ夕刻だが、夜更かしと早起きと大暴れが随分堪えたらしい。だから早く寝ればいいのに、といつものように呆れてしまった。
「キャプテン」。ヤマイは静かにローを呼ぶ。腕で隠れた顔が少しだけ動いて、暗い色の瞳がヤマイを見た。
「指輪、返してくれ」
また怒り出すかもしれないが、私物を謂われなく没収されたヤマイの方こそ怒ってもいいはずだ。けれどヤマイは怒りたくない。ローの我が儘や人を馬鹿にした態度を我慢出来ないほど子供ではなかった。柔らかい声で『お願い』すると、ローはソファーの上でもぞもぞと動いてヤマイに背を向けてしまう。何も言わない。無視するつもりか。困ってもう一度声を掛けようとしたが、ローのズボンの尻ポケットが小さくぽこりと膨らんでいるのを見て理解した。指を差し込んで中身を抜き出せば、あったのは紛れもない、ヤマイの指輪だ。
「…ありがとう」
肩越しにちらりとローの目がヤマイを見る。シルバーリングが元あった指に嵌められるのを見届けて、ヤマイの首筋に手が伸ばされた。
「…寝る」
「今?」
「眠い」
「中途半端だ。もう少し我慢して、晩飯食ってから寝よう」
「無理だ」
「…15分だけだぞ」
ん、と頷く声が、まどろんで甘く響く。瞼を閉じた顔はいつもより幾分幼い。ヤマイがローの眠る顔を見るのは初めてだ。眺めていたらあっという間に15分が過ぎてしまって、ローに襟元を握りしめられていたことには気付かなかった。