ロー長編 | ナノ


「おれのお守り、キャプテンにあげようか」

いまだローの手で弄ばれているネックレスは、実際は単なるシルバーリングとチェーンで構成されていて、お守りというほどの神力が込められているわけでもないが、人が人を想う気持ちというのは確かに力となるはずだ。
ヤマイの申し出にローは挑発的に笑って、ヤマイの目の前にそのお守りをぶら下げる。

「おれにお守りなんてものが必要だと思うか?」
「思わないけど、おれがキャプテンに持っていてほしいから」

ヤマイの言葉に目を細めたローは、一瞬考える素振りを見せながらもチェーンを抜きとって躊躇うことなくリングを左手の薬指にはめる。ヤマイより細い彼の指には、少々緩いようだ。サイズを直す必要がある。ローのための指輪にしなくてはならない。ヤマイの指には二度とはまらなくなっても、ヤマイは構わなかった。ローが自らその指輪を左手の薬指にはめたことが、何よりも嬉しい。

「今度、お前にも代わりの指輪を買ってやる」
「…うん」

それじゃあまるで、結婚指輪の交換だ。
浮かんだ言葉を飲み込んで、ヤマイはただ頷いた。ローは笑う。いつものようにニヤニヤと人を馬鹿にした口元は更に孤を描いて、ヤマイの見間違いでなければひどく嬉しそうだった。「ついでに誓いのキスでもしてやろうか?」。ヤマイの心情を読み取ったかのような台詞にヤマイは目を丸くして驚いたが、返事をする前に首を持ち上げられて施されたキスに言葉を失った。
誓いの、というには濃厚で、ローの薄い舌がヤマイの口の中を舐め回す。くふ、と驚いて漏れた息にローがくすぐったそうに笑って、最後に唇を舐められると今は繋がっていないはずの背筋が震えた。「キャプテン、」と呼んだ声は少しだけ熱を帯びていたせいか、ローも背筋を震わせたように見える。手があれば抱きしめていたかもしれない。残念なような、しかし抱きしめるだけで済みそうにはなかったから、なくて良かったとも思う。

「…ベッド行くか」
「もう?今日は随分と早くないか?」

時計はまだ日付の変更にすら余裕がある時間帯だ。睡眠のベストタイミングは夜の10時から2時。今ならベストもベストだが、ローにしては早過ぎる。今日はそんなに疲れることがあったかと首を傾げたヤマイに、ローは何言ってんだこいつと雄弁に語る表情で睨んだ後、一瞬考え込む様子を見せると悪い顔で笑った。デジャヴュ。こんな顔をヤマイは前にも見たことがあった。確か、そう。ローと取引をした時だ。

「おれをねかせるのはお前の仕事だろ?」

なにか企まれているような感覚の正体を掴む前に、ローがヤマイの頭を手放して体の全てがひとつに戻る。「先にシャワー浴びてくるから部屋で待っとけ」と言われてしまえばヤマイはただ頷くしかない。強引だ。けれどローを寝かせることが仕事だと、ロー本人に言われたことはひどく嬉しかった。ずっと一緒に眠れたらいい。ローが頼りにしてくれたら、そしてローの健康を守れるなら、ヤマイはずっと夜を捧げたって構わなかった。

健やかなる時も、病める時も。
死が二人をわかつまで。

ローの穏やかな眠りは、ヤマイが一生守っていく。


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