ロー長編 | ナノ


なんでだ。
さっぱり意味がわからない。

ローが円を作って長刀をひるがえした途端、ヤマイの体は瞬く間にばらばらにされていく。手足や胴体、首が床に転がって、見上げたローの顔は逆光のせいでいまいちよく見えなくなった。笑っていた顔の下では怒っているのか、それともいつも通りの悪い冗談なのか。後者ならばともかく、前者ならヤマイには理由がわからない。突然の出現に驚きはしたが、ローに聞かれて困ることではなかった。ただ少し照れ臭いだけだ。
もしローが馬鹿にされていると思ったならば、怒ったとしても理解が出来る。けれど誤解だ。ヤマイはローを軽く見て好きだと思ったわけではない。ヤマイの言うことなんか全く聞かなくて、いつだってにやにや馬鹿にして、なのに時折見せる甘えたような姿がたまらなく愛しい。自覚したのは最近だが、出会った時から何をされたって嫌いになれないくらいには好きだった。好きなだけで尽くすことが出来るほど、ヤマイはローを大事に思っている。

「…キャプテン?」

恐る恐る呼ぶヤマイに、ローは無言で床に手を伸ばした。拾い上げたのは細いチェーン。リングと擦れてちゃりちゃりと鳴る。「あ」。そうか。先程の話を聞かれていたということは、指輪の贈り主も知られてしまったということだ。ヤマイはローに「大事な人からもらった指輪」だと言った。嘘はついていない。けれど大事な人が母親だと知ったら、さぞかし馬鹿にするに違いない。
案の定、ヤマイの視点に合わせてしゃがんだローは唇の端が上がっていた。にやにや。いくら見慣れたとはいえ、いやな顔だ。

「母親からもらったもんだって?」
「…うん、そうだよ。おれの大事なお守りだ」
「マザコン」

さらっと言われた最もダメージのでかい一言に、ヤマイは唸った。そう言われたくなくて黙っていたのだ。ばれてしまったのはベポの背中で隠れていたローに気づかなかったヤマイの過失だが、なにもそんな風に言わなくたっていいじゃないか。ローの親の話など聞いたことはないが、まさか一人で育ってきたわけでもあるまいに。

「育ててくれた親を好きで何が悪いんだよ」
「悪い」
「なん、」
「お前はおれのことだけを考えてればいいんだ」

ヤマイの口は「なんでだよ」と反論しようとしたまま、途中で固まってしまった。ローの言い草はまるで独占欲の塊だ。子供っぽくて熱烈な感情は、ヤマイを嫌っていたらとてもじゃないが口に出せないだろう。嫌われていない、それだけでヤマイは安心して、空気が抜けたように口元を緩めた。

「…わがまま」
「悪いか?」
「いや、悪くない」

にやっと笑ったローが、ヤマイの左腕を床から拾ってキスをする。薬指に感じる柔らかな感触。胸がぎゅうと苦しくなる。まるで心臓を掴まれたような錯覚に、古代エジプト人が左手の薬指を心臓に直結している指だと勘違いした理由も解るような気がした。心臓に輪をかけて拘束する。それは恐ろしくて、けれど相手を愛するがゆえの純粋な欲求だ。愛しいという気持ちだけで、こんなにもたやすくハートは奪われてしまう。


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