ロー長編 | ナノ


午前2時。今日もローは眠らない。
今朝は6時頃に無理矢理起こしたし、昼寝だってしなかった。昨日と同じように図書館へ行って、それからずっと本に浸かっている。いくら動かないといえど、目を使えば体力は奪われるはずだ。それにまた食事も軽食ばかりで、ヤマイが無理矢理食堂に連れていこうとするとバラバラにされてしまった。胴体から首を離されてしまったヤマイは、また活字に没頭しているローを眺めて考える。昨日はあんなに素直に寝入ったのに、と。

「…キャプテンは、」

考えたことが考えなしにつるりと口をついて出て、何よりヤマイ自身が驚いた。ローも少しだけ目を丸くしてヤマイに視線を向ける。しかしすぐに眉を顰め、まだ何か文句があるのかと言わんばかりに顔が歪んだ。ローのこんな表情も、もはや見慣れてしまった。
嫌われているのかもしれない。口煩いのは自覚している。ローだって医者だ、睡眠の重要性は言われずとも承知していると思う。それでも無理を重ねるのであればあとはもう自己責任。医者は指導はするが強制は出来ないのだ。
ローはこの船の長であり、その責任だってわからないわけではないだろう。傍若無人のような顔をして、クルー想いなのは短い付き合いのヤマイにだって分かる。自分を粗末にすることでどうなるのか、きちんと理解しているはずだ。その上で我が身を大事にしないのは、きっとローが自分の限界を正しく見極めているから。それでも。
ヤマイはそれでも、言わずにはいられない。薄々気づいていた。これはもう医者の意地ではない。単なる我が儘だ。ヤマイはローに、健康でいてもらいたい。健康でいて貰わなくては、困るのだ。

「…キャプテンは、誰かが傍にいないと眠れないのか?」

睨まれて引っ込みがつかなくなった言葉の続きを漏らすと、ローの表情がまた変わった。なに言ってんだこいつ、おれを何だと思ってる、と雄弁に語る表情だ。ヤマイだって何も本気でそんな情けない性癖がローにあるとは思っているわけではない。けれど昨晩、添い寝をした途端素直に寝入った姿や、つい先日にも冗談ながらに添い寝を誘ってきたことを思えば、思い当たるのはそういった性癖があるせいで寝付きが悪いということだ。ありえないわけではない。信頼出来る人に手を握っていてもらわなくては眠れない症例も、ヤマイは知識として記憶にあった。

「…そうだとしたら、お前はどうするんだ?」

にやり。ローは一瞬考え込む様子を見せると、悪い顔で笑った。おおよそ一人では眠れないような可愛いげのある男の顔ではない。質問に対する答えにもなってない。しかしいくら真実を教えろと問い詰めても機嫌を損なうだけなのはわかっていた。ヤマイは小さく溜息を吐いて、それからローの眼をじっと見る。どうすると言われたら、そんなもの、ヤマイの答えはたったひとつだ。

「おれでいいなら、一緒に寝るよ」


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