ランプの灯を消した闇の中、うっすらの月の光に照らされてローの頭が見える。ヤマイの懐に潜り込んで腕の中に収まったローは、まるで死んだように深く寝入っていた。誰かと眠るのは久々で、ましてローと違いきちんと睡眠をとっているヤマイには、まだ眠気がやってこない。だからと言ってベッドを抜け出せばローも起きてしまいそうで、身じろぎも出来ずに様々なことを考えていた。
例えばローがどうしたら素直にちゃんと寝てくれるか、とか、明日はローにまともな食事をとらせなければならない、とか、いっそのこと本棚をもうひとつ買ってしまえば本を借りずに奪う気になるんじゃないか、とか。
とにかくヤマイは、ローに健康的な生活をしてほしかった。海賊なんて危ない生業をしているのだから、尚更体には気を遣って欲しかった。
ローの枕になっている、左腕の薬指。そこに嵌まっている指輪の本来の持ち主は、ヤマイと同じ医者だったと母親から聞く。ヤマイが物心着く頃には既に亡くなっていた父は、真面目で責任感が強くて、仕事熱心だったがゆえに過労で死んだのだと。それを話す時の母親はいつも泣きそうで、哀れで、ヤマイはやがて無理をする人間に恐怖すら覚えるようになった。
ローは、置いていかれる人間の心を知らない。だからこんなにも、自分を雑に扱えるのだ。どれだけ愛されているかも知らないで、なんて自分勝手なこと。