大したことじゃない。助けられただけだ。あんなことは、今までだって無いわけではなかった。庇われて胸元に引き寄せられたことも、逆に押し倒して砲撃を避けさせたこともある。平気だった。恥ずかしいと思ったことはなかった。だのにイサキの口元が近付いた途端、先日のキスがフラッシュバックして気付いたら蹴り飛ばしていた。おかしいと思っただろう。怒っているかもしれない。あんな大時化の中、甲板の隅に置き去りにしてしまったのだ、責められない方がおかしかった。
どんな顔をして謝りにいけばいいのかわからない。どんな言い訳をすれば信じてくれるかも思い浮かばない。
時化は過ぎて照る太陽は燦々と輝いているのに、おれの腹の中は重く澱んだままだった。