「わからん」
怒ったような唸り声で呟いたのはおれではない。サッチだ。
「なんでお前蹴られたの」
「おれに聞かれても」
先の大時化でサボるわけでもなく、普通に働こうとしていたおれは、何故だかマルコに腹を思い切り蹴られて気を失っていた。目を覚ましたら快晴。そしてマルコはいなくて、サッチがいた。
おれが聞きたい。なんで蹴られた。マルコが頭を打ちそうだったから助けたはずなのに。
「端っこに寄せてくれたのがせめてもの情けなのか」
「情けじゃねェだろ。下手すりゃ船の外弾き出されるぞ」
「…………やっぱり怒ってンのかな」
「ん?」
「酔ってキスした、…らしいんだ、マルコに」
あの時、宴の中心にいなかったはずのサッチに言うと、目を丸くしておれを凝視した。「…えっ?」と裏返った声は、随分驚いているようだ。
「…酔って、だぞ?」
「あ、…あー、うん、酔って、酔ってな、うん、あ、そー」
「なんだよ、サッチだってよくあるだろ。酔ってエースに絡んだりとか」
「いやいやいや、はー、そっか、いやうん、なるほどねー」
「…なんだよ」
にたにた笑うサッチが気持ち笑い。なんだよ。こっちはマルコに嫌われたんじゃないかっていう一大事だっていうのに。