マルコ長編 | ナノ


嵐だ、と大声が飛び交う船の中はどこか楽しそうで呆れてしまう。ハプニングが好きな荒くれどもはバタバタと忙しなく駆け回って、轟々と唸る強風の海を切り抜けようとしていた。

読みは当たりだ。眺めていた雲の動きはあっという間に早くなり、モビーディック号を黒い綿で包むように覆ってしまった。雨は強いし前も見えない。雷の音が耳をつんざき、大声を出さないと指示も通らない海で、唐突に声を掛けられて肩が揺れた。

   マルコ!すごい時化だな!」

降りしきる雨に眉をひそめながらロープを納戸から持ってきたイサキが、通りがけに隊長であるおれへ挨拶をしていく。それに手の平を上げて返した。

「ああ!お前もさっさと働けよい!」
「了解!   っと!」
「っ!!」

がごん、音を立てて船が跳ねるように揺れる。不意を突かれて折れた膝から、体のバランスが崩れた。まずい、倒れる。
ふと前を見ると誰かの手が伸びていて、咄嗟にそれを掴むよりも先に、倒れた。

「ってェ…!」

痛みを訴えたのはおれではない。反射的につむった目を開けた先、至近距離にある。イサキの、口。

「…マルコ、大丈夫か?」

大声を出さなくても聞こえる。俺を抱きかかえるようにして倒れたイサキの腹を、気付けばおれは蹴っていた。


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