オヤジに怒られる前に、マルコの部屋のドア直してくる。
おそらくはごまかしようもないほど震えてしまった声で言い訳を零して、おれはいたたまれない空気から逃げ出した。早足でもう一度納戸へ戻って、木材と工具を手にマルコの部屋へ向かう。
信じられないけど、サッチもイゾウも、それが本当であるかのような反応をするから、信じたくなった。もしかしたらみんなでおれを騙しているのかもしれない。後でひどく傷付くのかもしれない。そう自分に言い聞かせて浮き立つ気持ちを抑えようとしても、無理だった。
うれしい。恥ずかしい。照れ臭い。だけどやっぱり、うれしい。
泣いてしまいそうになる目に力を入れて、睨むようにマルコの部屋のドアを取り付けた。ガンガンと金鎚を鳴らして船大工の真似事をするおれを、ちらほら起き出したクルー達が不思議そうに見詰めているが、誰も寄って来なかった。ラクヨウやビスタでさえ、おれを一瞥して、そそくさと去っていく。何故だと聞かれたら、理由は簡単だ。
「…殺人鬼みてェな面してんじゃねェよい」
そんなに酷い面してるかな。
いつも通りに返事をしようとしたけど、部屋に戻ってきたマルコの姿を見た途端、また顔が熱くなって何も言えなくなってしまった。口ごもるおれを、マルコも困ったような表情で見ている。いや、困ったとは、少し違うのかもしれない。ただちょっとだけ、照れ臭いんだ。
「…終わったか?」
「う、ん」
「ちゃんと直せたのかよい」
「だいじょぶ、と、思う」
「…部屋、入れよい」
「う、うん」
いい年したおっさん二人が赤面して、どうしたことだと思うだろう。けどどうしようもない。マルコに誘われて部屋の中に入ると、一層苦しくて堪らなくなる。
マルコ。マルコ。呼ぼうとする度もつれる舌に、触ろうとする度痺れる手に、こんなにもマルコのことが好きなんだと思い知らされる。
「マルコ」
「…なんだよい」
「好きだ」
口にするには青臭い一言を、言ってしまえばマルコは笑ってくれた。それがあんまり愛しかったから、おれはもう、諦めたくても諦められないとようやく理解したんだ。
きっともう、この病は、草津の湯でも治せない。
好きだよ、マルコ。ずっと、好きだよ。