早く、なんか言え。
うれしい、とか、よかった、とか、喜びの言葉がいい。互いの意思が合致しているのだと伝えたはずなのに、イサキは目を見開いたまま微動だにしない。口はあんぐりと開かれているのに何も声が聞こえないから、じれったくてたまらなかった。唇をぺろりと舐めると、そこでようやくイサキの肩が大袈裟に震えて反応する。「…え?」と呟いた声は無意識のようだ。なんて鈍い。
しかしこれでようやく通じたかと、安堵する間はなかった。目が泳ぎに泳いだ挙げ句、イサキから漏れたのは否定的な言葉だ。
「…うそだ」
「あ?」
「うそだ、うそうそ、マルコがおれを、なんて、有り得ねェ」
「…はァ!?」
「だって、マルコ、イゾウが好きなんじゃないのか?」
「ハァア!?」
「だから、おれ、あン時睨まれて…」
別にそんな気を遣わなくても、おれはちゃんと覚悟してるからフラレたって構わないし、そもそもマルコがおれを好きになってくれるなんて思ってもいないし、だから、悲しいし苦しいけど、マルコが変な優しさでおれに付き合ってくれることの方が傷付くし、だから、マルコそんな、嘘言わなくてもいいんだ。いや、いわないでくれ。後で尚更、苦しくなる。
イサキから矢継ぎ早に返された答えは、とんでもない。おれの言葉を端から信用せず、嘘だと決め付けているようだ。もういいから、そんなこと言わなくたって、今まで通りに過ごせるように頑張るから、とおれの下で必死に首を振る様子からして、冗談や照れ隠しではないらしい。
なんてことだ。ここまでして、何故通じないのかさっぱりわからない。おれはちゃんと、気持ちを伝えているのに。
「
「いっ!」
「なんでそうなるんだよいっ!」
拳をたたき付けた頬を押さえて、イサキはぽかんとおれを見上げる。「だって」。言い訳のように繰り返された反論は、あまりにも幼い。まるきり叱られている子供のような態度にますます腹が立って、首が絞まるほどにきつく胸倉を掴み直した。
「マルコ、くる、し」
「てめェはおれが好きなンだろうがよい!」
「は、はい、」
「だったらつべこべ言わずにおれのもんになりやがれ!」
もはや告白でもなんでもない。ただの恐喝だ。
イサキはおれがずっと前から好きだったと言って、おれの気持ちにも相違はないというのに、どうしてこんなに擦れ違うんだ。脱力してイサキの胸倉を離すと、イサキは首元を押さえてひとしきりゲホゲホ噎せた。それから小さな声で「よ、喜んで…?」という間の抜けた返答がくる。なんだこれ。おれが欲しかったのは、こんなものではないというのに。