サッチに引きずられて甲板まで上がると、海水の滴る頭にタオルが降ってきた。狭まる視界の中、俯く先に見えた脚が誰のものかなんてわかっている。息がしづらくて死んでしまいそうだ。だから酒なんてもう、やめておくべきだった。ろくなことにはならない。おれはそれを、身をもって知っていたはずなのに。
夢と間違えて、どこまで本当にしてしまったのか覚えていない。酒で頭がぼんやりしていて、本当なのか願望なのかもわからない。
薄闇の中でキスをした。応えるようにキスを返してくれた。ずっと前から好きだったと言って、
「…っ」
「おっと、はいはい、逃げねェの」
逃げ腰になったおれの体を、サッチが羽交い締めにして押さえ込む。逃げたって仕方がないことを頭ではわかっていたから、大人しく力を抜いた。背中を押されてじりじりと近付いていく度に、心臓が冷えて痛みを生む。このまま凍り付いて止まってしまえばいいと思った。けれどその反面、頭のどこかで安心している自分がいる。拒否をされたっていいんだ。他の隊に回されたって構わない。話せなくなったって、目を合わせなくなったって。諦めるも諦められないも関係なくなる。自分の気持ちに苦しまなくなる。これでもう本当に、おしまいなんだ。
「
うん、と返した声は低く掠れて、サッチの拘束がなくなった体は素直に歩き出す。タオルは被ったまま、顔が見えないのが唯一の救いだった。
マルコの顔を見たら、おれはきっと、泣いてしまうだろうから。