ドアが開かない。ノブに力を込めてもがたがたぎしぎしと悲鳴を上げるだけで、外側から何かされているのが分かっただけだ。逃げようのない二人きりの空間が例えようもない焦燥感を生む。くそ、サッチめ。何か企んでやがったな。
蹴り壊して逃げようと足を上げた瞬間、しかしそれを止めたのはイサキだった。「まるこ…?」とおれを呼ぶ声が穏やかで優しくて、ぐっと息が詰まる。酔っているんだ。正気ではないんだろう。酔ったイサキが記憶を失うことも知っている。ならば、と踵を返してイサキが横たわるベッドに近付くおれが卑怯な男だと、今なら誰にも知られない。
「…なんでここで寝てんだよい」
「んー…?わかんねー…」
ベッドの脇に膝をついて目線を合わせると、緩やかに伸びてくる手がおれの頬をさする。その手に擦り寄ると、イサキの口元が緩んだ。胸が苦しくなる。嬉しそうな顔。なんでそんな顔するのか、問いただしてもイサキはふわふわ笑うだけだった。「まるこ、まるこ」。何度もねだるように名前を呼ばれて、背筋にぞくぞくと痺れが駆け上がる。「イサキ」。「うん、なに」。「今日は、キスしてこねェのかよい」。あの夜を思い出して聞くと、イサキは一瞬目を丸くして、それから一層嬉しそうに破顔した。「していいの?」。いい。していい。してほしい。
誘うように顔を近付けると、イサキの手の平が後頭部に回った。引き寄せられて、柔らかな唇が当たる。心臓が痛い。苦しい。すぐに離れたそれを追って再びキスをすると、くっついたイサキの唇が、くす、と笑った。がっついていると思われたのだろうか。恥ずかしくなって顔を離したが、イサキの手の平がそれを許さない。また引き寄せられて「もっと」とねだる唇に、殺されてしまいそうだ。熱くて熱くて、たまらない。