頭痛が治まらないというのにサッチに誘われて飲みに行ったのは、もう今は何も考えたくないからかもしれない。度の強い酒ばかりを頼んで、ろくに話もしないうちにテーブルへ沈んだおれを、サッチが担ぐようにして帰ってきた。
「お前さァ、なんでもいいから、イサキに言ってみろよ」
子供を諭すように柔らかかったサッチの声が、また頭痛をひどくさせる。言わないんじゃない。喉がつかえて、言えないだけだ。いい年こいて、と馬鹿にされるだろうから、曖昧に頷くだけにした。
「ほら、部屋着いたぞ」
「ん…」
「じゃあな、あとは自分で頑張れよ」
中に入ってすぐに支えを放棄し、すぐさま出ていったサッチが力強くドアを閉める。ベッドまではもう少しだ。千鳥足でも辿り着けないわけではないが、なにもあんな逃げるように行かなくてもいいだろうに。
足元さえよく見えない薄暗がりの中、ふらふらしながらベッドに近付く。しかしあと一歩でシーツの中に潜り込めるといった距離で、誰かがいることに気付いて一瞬で酔いが覚めた。
誰かが誰かわからなくて驚いたわけじゃない。誰かが誰か、わかったから、息を飲むくらい驚いたんだ。
「
すやすや、おれのベッドで眠っている男は、どう見ても確かにイサキだ。どうしてここに、と問う声に、イサキは身じろぎをして、うっすらと目を開いた。
「あー…まるこぉ…?」
ふにゃ。笑う顔と声は、見覚えがある。酔っ払って、キスをしてきた。その時のイサキだ。