マルコ長編 | ナノ


「イサキ!いい酒買ってきたんだー飲もうぜ!!」

満開の笑顔で大量の酒を掲げたエースが、すごく、下心があるように見える。
今までエースからいちいち酒に誘われたこともなければ、わざわざおれと飲む為に酒を買ってきたとも考えにくい。確かに仲はいいが、おれとエースじゃ歳がだいぶ違う。価値観もだ。相談ならまだしも、普通に飲んで話すだけならば2番隊のやつらとか、同じ年頃のやつらとか、ちょうどいいのがいくらでもいるだろう。

「…なに企んでる?」
「えっ」

エースは人の秘密を知ってしまっても決して他言しない良い子だが、嘘をつくには経験が足りない。あからさまに顔に出たエースは「なにも、なんも!」と首を振っているが、まあ、十中八九嘘だろう。何を企んでいるやら、想像がつかないわけでもない。

「…マルコのことか?」
「うっ」

当たりだ。冷や汗をたらりと流すエースを、今ばかりは苦笑で済ませられない。心配してくれているのはわかるが、もう放っておいてほしかった。

「いいじゃねェか、付き合えよ」
「イゾウ…」

どかりと隣に座ったイゾウが、これまた企んだ顔をして笑っている。蹴られた鳩尾がまだ痛くて、痣になっている部分をそっと撫でた。

「カワイイ弟がお酌してやるっつってんだぜ?オニイチャン」
「こわァ…っ!イゾウその笑顔こわァ…っ!!」
「おいエースこいつ押さえ付けろ、ケツから大吟醸飲ませてやるよ」
「ワーイ、イゾウクントエースクンニオシャクシテモラエルナンテ、オニイチャンウレシーイ」
「最初からそう言えよ、ったく世話の焼ける…」
「お、おれが悪いのか…?」
「…悪いだろ。なんだ今朝の、あの態度」

急にトーンを落としたイゾウの声が、脅された時よりも心臓を揺さぶる。
わざとじゃなかった。けれどイゾウを巻き込んでしまった事実には変わりがない。マルコがどうしておれを睨んでいたのかは知らないが、もしかしたらマルコの好きな人というのはイゾウなのかもしれないと考えれば全てが一致した。イゾウを抱きしめていた時に感じた寒気は、マルコの殺意だ。

「………ごめん」
「シケた面してんじゃねェよ。おら飲め飲め」
「そうだイサキ、飲め飲め!」
「おいこらジョッキにウォッカたァどういうことだ」
「飲め飲め!」
「飲め飲め!」
「な、なんなのこの弟ら…!」

口に押し付けられたジョッキが歯を折る勢いでがつがつ当たる。諦めて流し込んだ酒は喉を焼いて、少しだけ沈んでいく気分が逸れた。やんややんやと騒ぐ弟二人が何かを企んでいるのは重々承知だが、それがおれの為を想ってのことならばこんなにも嬉しいことはない。しかしジョッキになみなみと注がれた酒を見て、嫌だなァと思うのは許して頂きたい。おれはもう、酒での失敗はこりごりだ。


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