マルコ長編 | ナノ


頭が痛くて仕方ない。目を覚ますと確かにそこにいたはずのイサキはいなくなっていて、枕元に水差しだけが置いてあった。一杯注いで飲み干す。冷たい水が頭痛を悪化させるが、胃の中は幾許かすっきりした。

部屋の中がひどく酒臭くて、換気のためにドアを開けたところで廊下の向こうから誰かがどたばたと走ってくるのに気付いた。サッチだ。目が合って足を止めるが、落ち着かない様子は何かを探しているらしい。

「マルコ、イサキ見なかっ    酒臭ァ!」
「うるせェよい…頭に響く」
「えっ何お前二日酔い?らしくねェなァもうやめてくれよお前ら!」
「だからうるせェって言ってんだろうが…それより、イサキがなんだって?」
「そう、イサキな、あいつも何かおかしいんだよ…なあ、お前らやっぱり何かあったんだろ?喧嘩したのか?」

何もない、と嘘をついても今更無意味だ。しかし言葉で表そうとするにはあまりにも何もない。
酔っ払ってキスをされた。恥ずかしくなって蹴り飛ばした。理由も言わずに怒鳴りつけた。それからイサキがよそよそしくなって、そのうち女を買ったという誤解を受けた。いつも通りの態度に戻ったかと思えばいきなりあれだけ興味もなかったはずの色街に行くと言い出して、おれはその移り変わりについていけてない。たったそれだけの話だ。
イサキが何を思っているのかわからない。話そうともしないのは拒絶のつもりか、一番仲がいいと言われていた頃と比べると随分他人のようになってしまった。

「…イサキの考えてるこたァ、わかんねェよい」
「わかんねェなら話し合えよ!いい年した男二人が何まごまごしてんだよ…!」
「…うるせェよい」

頭痛が強くなる。食い下がるサッチの横を通り抜けて、薬でも貰おうと医務室に向かった。


「あ」

歩き出して角を曲がった途端、後ろについてきていたサッチが思わずといった声を上げた。なんだ、と俯きがちだった目を背後のサッチに向けて、それから硬直している視線の先を追う。

「…あ」

声を漏らした。あとの言葉は続かなかった。

    イゾウと、イサキが、抱きしめ合っている。

喉が詰まって息が出来ない。
誰か、この状況を説明してくれ。


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