マルコ長編 | ナノ


「お、イサキどうした、昨日はさぞやお楽しみで    
「イゾウッ!!」
「ぐえっ!」

船内を宛てもなく早歩きで突進していくおれに声を掛けたのは、16番隊隊長のイゾウだった。見境なく、大きく広げた腕の中にタックル同然で囲い込む。もう誰でもいい。年甲斐もなく荒れる心を落ち着かせてくれれば、女じゃなくても良かった。丁度よく見付けてしまったイゾウにぎゅうぎゅう抱き着くと、イゾウは苦しそうな声を上げておれの背中を叩く。少しだけ力を緩めるが、離れることはしなかった。

「…どうしたそんな落ち込んで、やっぱり勃たなかったのか」
「…お前らおれをそんなにインポに仕立て上げたいか…」
「いたたた苦しい苦しい悪かったはいはい勃ったのなわかったわかった」

    で、どうした?
優しい声が耳に心地良い。白ひげのクルーはみんな家族思いで、こういう時にはひどくそれが身に染みる。イゾウを柔らかく抱きしめ直して、首筋に額を乗せた。整えられた髪からは椿油のいい匂いがする。

「…イゾウさん、お兄ちゃんのお願い聞いて」
「キモい」
「あっー…!今すごい心に傷負った…!もう立ち直れないおれ駄目すぎるオヤジのヒゲに刺されて死にたい」
「わかったようるせェななんだよ朝っぱらから変なテンションしやがって」
「…ぎゅって抱きしめて下さい」
「うわっ…キモっ…」
「し、辛辣ゥ…!」

本気のトーンに冗談抜きで心が刔れそうになるが、それでもイゾウはちゃんと抱きしめてくれた。力が強すぎて骨が軋む。でも安心する。背中に何やらぞくぞくと寒気がするのは、イゾウのような美人といえど男に抱きしめられているからだろうか。やっぱりおれが男のマルコを好きになったのは奇跡に奇跡が重なっただけで、本質は至ってノーマルな性癖なんだ。そう考えると落ち着いて、胸に溜まっていた重苦しい空気を一気に吐き出した。大丈夫、今度は間違えずに女を好きになる。上陸した島で見初めた女と結婚した海賊なんていう話もそう珍しいものじゃない。出来れば今度は、おれを好きになってくれる人を好きになろう。

「…なァ、イサキ気付いてるか?」
「うん?」
「…マルコがすごく、こっち、睨んでる」

    マルコ?

知らない知らない。気付かない。おれはもう、マルコなんて、関わりたくもない。


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