「え?マジで?覚えてねェや」
やっぱりな、と思った。腹が立つ反面、安心した。朝が明けてみれば、イサキはひどく酔っ払っていたこともおれにキスしたことも忘れてケロッとした顔で首を傾げて笑っている。自業自得といえど、気持ち悪いと言われたら、という懸念は杞憂に終わり、イサキは困ったように笑って謝った。
「そっかー、ごめんなマルコ」
「全くだよい。もっと蹴っときゃあ良かったな」
「え、おれ蹴られたのか。どうりでケツがいてェわけだ」
「……おれが蹴ったのは腹だよい」
「マジか。もしかして酔った弾みで誰かにケツ掘られたとか?」
「…馬鹿なこと言ってんじゃねェよい」
「うわマルコ何その顔こわっ」
「てめェが気色わりィこと言うからだろうが!」
「ごめんってー、冗談だってー」
多分ベッドから落ちた時の痛みだからー。
ごまかすようにおれの頭をぐしゃぐしゃと掻き回して、イサキはそそくさと逃げていってしまった。その後ろ姿を見て、詰めていた息をホッと吐き出す。そうか、ベッドから落ちただけ、か。