「…はぐれた?」
低い声はもはや恫喝に近い。周囲の温度は明らかに下がって、心臓がきゅっと縮んだ。マルコ超怖い。なんなのこれおれが悪いの?違くない?いきなりおかしくなったイサキが悪いんじゃない?でもそんなこと言えない。マルコ超怖い。
「いや、気付いたらいなくて、な?探したんだけど見つからなくて、な?」
「…そうかよい」
「戻ってきてんのかなーって戻ってきたんだけど、やっぱいねェ?よな?」
「…色街でいなくなって、戻ってきてるわけねェだろうがよい」
「だ、だよなァ…」
静かな声がやけに怖い。まだ怒鳴ってくれた方がマシだ。葬式のような雰囲気が二の句を告げなくさせる。イサキの選ぶ女が気になるから、と出ていったおれに話を聞きたい好奇心いっぱいのやつらがちらちらとこちらを見ているが、マルコの尋常ではない空気で容易に近付けないようだ。誰かこの空気壊してくれないか。辛い。すごく辛い。
大体マルコ、お前おれにどうしろというんだよ。着いていって、邪魔しろって?選んだ女を確認して、お前に報告しろって?それでお前、その後どうするんだよ。
「…サッチ、悪かったな。もういいよい」
「え、」
重苦しい沈黙を破って、マルコは一際小さな声でおれに謝った。「もういいって、どうすんだ」。慌てて聞いたが、マルコは何も答えなかった。頼りない姿で部屋に戻ってしまった直後、影でおれ達の様子を伺っていたラクヨウが寄ってくる。
「今度は何したんだよサッチ。マルコ超怖かったじゃねェか」
「何もしてないのに悪いのはおれと決めつけられるおれ超可哀相」
「…日頃の行いのせいだろ」
ぽん、と肩を叩かれて、ちょっと泣いてしまいそうだ。くそ、イサキめ。本当にどうしちまったんだよ。