サッチたちとはぐれた。
いや、正確にいえばはぐれさせられた、だ。
誰かの視線を感じて足を止めたおれを、路地裏から伸びてきた白い手が引き寄せた。少し前を歩いていたサッチたちは気付かなかったのかあえて放置されたのか、どんどん離れていく気配がする。
「ね、おにいさん、いかが?」
主語がない問いでも、こんな夜の街で女性から声を掛けてくるとなれば理解は出来る。
相手は自分で選ぶものだと思っていたが、どうせお遊びだ。今まで馬鹿らしく守っていた貞節を久し振りに捨てるなら、積極的な女の方が楽でいい。
お手柔らかに、と軽い調子でお願いしようとしたおれは、月明かりに照らされた女の顔が見覚えのあるものだと気付いて硬直した。
「…マルコの、」
「え?」
あの時、マルコと一緒に路地裏から出てきた女。あの時は白昼の下にいたから、顔はよく覚えている。気の強そうな女。体に押し付けられた胸を、おれはそっと押し返した。
「…遠慮しとく。仲間と穴兄弟になりたくないし」
「あら、あなたのお仲間とした覚えなんてないわ。あなた、白ひげの人でしょ?」
「覚えてないか?金髪で、胸元に入れ墨の入った男」
十字を切るように白ひげのシンボルを表すと、女は思い当たったのか「ああ」と一言上げて、それからすぐに不機嫌そうな顔になった。
「あなた、あの時いた人なのね」
「ああ、だから悪いな、他探して…」
「心配いらないわよ。あの人、つまらない人だったわ」
「…うん?」
「必死な顔して断られたの。失礼しちゃう」
好きな人でもいるのかしらね、と呟いて再びしがみついてきた女に、ひやりと冷たいものが心臓を侵した。
そうか、あの時のマルコは、本当のことを言ってたんだ。してなかったのか。何も。本当に。好きな人?へェ、そうなのか。ずっと見ていたのに、気付かなかった。
「…じゃあ、いいか」
「あら、やる気になった?」
「ああ、その前に
素面だと気恥ずかしくて、と笑うおれに、女は快く頷いた。