マルコ長編 | ナノ


ぼんっ!と音を立てて燃えたエースを見て、イサキは「ウブだなァ」と笑っている。笑い事じゃない。よくない。これはよくないぞ。
おれが恐る恐るマルコの方に視線をやると、マルコは手を中途半端に開いた不自然な形で固まっていた。目はイサキに釘付け、顔は真っ青で、足元には無惨に散った瓶の欠片。飲んでいた酒を落としたことも気付いていないようだ。
まだポッポッと燃えているエースをひとしきりからかい終えると、イサキは色街に誘ってきたやつを連れて出ていってしまった。冗談や生返事ではなかったらしい。ほんとにいった、と呟いたのは誰だったか。この場にいる全員の心を代弁していた。だってそうだろ。イサキは女を買うとか女で遊ぶとか、興味がないっていうのが共通の認識だったんだから。

やがてイサキの姿が見えなくなると、マルコは錆び付いた機械みたいに鈍い動きでおれを見た。いや、そんな見られても。
    さっち。
声が出ない口でマルコがおれを呼ぶ。いや、だからそんな、呼ばれても。
おれだってイサキが何故いきなり色街なんかに興味を持ち出したのかわからない。この間は珍しく酔っ払ったどころか、マルコにキスまでしたとかいうし、本当に溜まっていたのだろうか。なんで今更。あの歳になって?「失恋でもしたのかな」。誰かが言う。それに反応したのはマルコと、エースだった。マルコはわかるが、エースはなんでだ。まさかお前もイサキのことが好きだって言うんじゃないだろうな。おいおいやめてくれ。からかって楽しめるならいくらでも応援するが、こんな泥沼の三角関係なんて見たくもねェぞ。

「…おれもついてってみるかなァ〜…イサキがどんな女選ぶのか興味あるし…」

動揺のせいで若干白々しい口調になりながら席を立つと、背中に突き刺さる視線が痛い。おれ今日は4番隊のやつらと飲みに行こうと思ってたのに、ちくしょう、どうしてこうなった。


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