マルコ長編 | ナノ


    色街かァ。そうだな、おれもたまには行こうかなァ」

その発言に驚いたのはおれだけじゃない。「たまにはイサキさんもどうスか」とだらしなく顔を緩めながら、だけどイサキに断られることを確信していた一番隊のやつも、驚いて目を丸くさせている。隣のテーブルで酒瓶が落ちて割れる音がしたけど、周囲にいるやつらは誰もそんなこと気にしない。それどころじゃない。おふざけならまだしも、女にも男にも手を出さないことで有名なイサキが、色街に興味を示した。これはある意味大事件だ。あまりにストイック過ぎて、やつは不能だとすら噂されていたのに。

「マ、マジっスか…!」
「ん?なんだよ誘ってくれたのお前だろ?」
「いや、そりゃそうなんスけど…、イサキさんて、インポじゃなかったんスね…」
「お前らの中でおれは一体どうなってたんだ」

ショックを受けている一番隊のやつの言葉にこそショックを受けたイサキは、しかしあまり気にした様子もなく席を立った。「おれだってたまにはやりたくなる」。当たり前の台詞が、どこかおかしい。おれはイサキの腕を掴んだ。だって、隣のテーブルには、マルコだっているのに。

「…ん、エースどうした?お前も行きたいのか?」
「違ェ、…けど、なんで」
「なにが?まさかお前までおれをインポ扱いするのか」
「それはどうでもいいけど」
「こら待てよくないぞ」
「だって、イサキ、お前、」

無意識に隣のテーブルに目線を移そうとしたおれの顎を、イサキが咄嗟に掴む。危ない。ついついマルコを見てしまうところだった。その目線だけでイサキとマルコの間には何かあるんだと、勘がいい奴には知られてしまう。
「エース」。宥めるような声でイサキはおれの名前を呼んで、ぐっと顔を近付けてくる。

「…それともお前が、おれの相手をしてくれるっていうのか?」

低く囁く声があまりにも艶を乗せていて、おれは思わず発火した。


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