マルコ長編 | ナノ


ほんの少し前まであからさまにおれを避けていたのに、目の前のイサキはいつも通りに笑っていて戸惑った。首を振る。なにもこんな白昼堂々、女を買っていたわけじゃないと否定する。

イサキはそういう、女遊びが嫌いだ。はっきりと明言していたわけではないが、兄弟達に売春宿へ誘われても、いい女にアプローチを掛けられても、一度たりとて受けたことはない。おれはそれに安心していたから、同じようにみだりな振る舞いはしなかった。節度のない人間だと思われたくない。元より処理が必要なほど欲情する歳でもない。
今までらしくもなく清らかに過ごしてきたというのに、まして何もしちゃいないというのに、こんな誤解は酷い話ではないか。

「イサキ、あれは無理矢理絡まれてただけで、お前が想像するようなことはなんにも…っ!」
「何慌ててんだよマルコ、おれは別に言い触らしたりしねェって」
「誤解だよいっ!」
「はいはい大丈夫。むしろマルコもちゃんと男の子だったんだなァって安心したから」
「何もねェって!」
「そんなに大きな声出すなよ、うちの船員に見付かったら七十五日はからかわれまくるぞ?」
「おれの話聞いてるのかよいっ!」
「聞いてるけど   、じゃ、これは?」

とん、と指先で首筋をつつかれ、慌てて掌でそこを覆う。女に吸い付かれたそこは、これが揺るがぬ証拠だとばかりに真っ赤な口紅が付いていた。これではいくら何もなかったと言ったって、説得力なんかまるでない。言葉を失ったおれに、イサキはいつもみたいな軽いノリとからかうような口調で「みっともねェな」と笑った。「そんなに知られたくないなら、きちんと消してから来いよ」と。
服の袖でごしごしと拭ってくれる手は優しいのに、おれを見る目はどこか冷たい。軽蔑したのか、と問い掛けられるほど、おれの口は上手く動いてくれなかった。


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