我に返った時には首に吸い付いてシャツの中に手を入れられていた。慌てて女を突き放し、金をその胸元に捩込んでやる。これで満足なんだろうと思ったが、逆に貰うだけでは悪いとしつこく絡まれる。
触るなよい、意地悪言わないで、売女は相手にしねェんだ、病気なんかもってやしないわ、そういうことじゃねェよい、私じゃ不満だっていうの、ああ不満だね、そんな寂しそうな顔してるくせに。
狭くて薄暗い路地裏でやいのやいのと言い争って、結局諦めたのは女の方だった。疲れた顔で不機嫌をあらわにしているくせに、与えた金はきっちりと貰っていく。強い女だ。海賊相手と知らないわけでもなかろうに、付け入る隙を見逃さない洞察力は大したものである。
一仕事終えた気分でようやく路地裏から抜け出すと、目の前には酒瓶を持って、驚いたように立ちすくんでいる男がいた。
目を合わせたことすら久々に感じる。一気に熱くなる心臓が、体温を急激にあげていった。さっきまで海にいたじゃねェかよい。サッチはどうしたんだよい。なんでこんなとこにいるんだよい。聞きたいことは沢山あって、でも言いたいことはひとつだけだ。少し話せたら、と思う。時間あるかとようようひり出そうとした問いは、ひどい誤解に叩き潰された。
「…なんだ、お楽しみだったか。マルコもやるなァ」