マルコ長編 | ナノ


珍しくべろんべろんに酔っ払ったイサキが、宴の中心から離れておれの方にやってきた。足取りは覚束ない。「まるこぉ」と緩く笑った顔に失笑で返すと、勢いよく腕が肩に回ってイサキの方に引き寄せられた。顔が近い。「なんだよい」と呆れているふりの声は、震えていることに気付かれなかっただろうか。熱くて堪らない。酒のせいではなかった。

「な、おれとちゅーしようか」
「…………酔っ払い過ぎだよい。もう酒はやめとけ」
「ちゅー、だめ?」

にやりと孤を描いた唇が、いいとも嫌とも言う前に押し付けられた。
ひゅー!イサキさんやるぅー!!
遠くから囃し立てる声と、近すぎてよく見えない顔と、酒に濡れた唇が頭の熱を際限なく上げる。このまましがみついて、キスに応じて、酒のせいに出来たら楽なのに、そうもいかない。白ひげのやつらはみんな、おれがそうそう酔わないことを知っている。

「っば、っかやってんじゃねェよい!!」
「あいたっわははははは蹴られちゃったァー!!マルコの唇奪っちゃったァー!!」

けたけたと笑うイサキは、悪酔いしてやんややんやと声援を送る喧騒の中へまた混じっていってしまった。一人残されたおれは船の縁に拳を叩き付ける。

ちくしょう、人の気も知らねェで。


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