マルコ長編 | ナノ


    なァ、マルコと仲直りしないのか?」
「…仲直り、かァ」

イサキが引っ張ってくれる浮輪に乗って、波を掻き分けていく。海に浸かった体の一部から力が抜けていってしまうが、波の音や冷たい水の感触、潮の匂いが身近にあって心地いい。「うん、早くしろよ、マルコと仲直り」。腑抜けた声で重ねて言うと、イサキは聞いているんだか聞いていないんだかわからない声で相槌を打つ。前を向いて海の中を進んでいるから、おれからイサキの顔は見えない。

「みんな薄々気付いてるぜ。イサキとマルコがよそよそしいって」
「…ああ」
「………なァ、もしかして告白したのか?」

近くで潜って魚を獲っているサッチに聞こえないよう小声で問えば、イサキはちらりと目線だけをおれに向けて、変な風に笑った。意図はわからない。告白したからこんな風に気まずくなったんだよ、と言っている風にも見えるし、諦めたんだから告白なんかするわけないだろう、と言っているようにも見える。はっきり教えてくれよ、と責っ付こうとしたおれの声を掻き消すように、イサキはおれを呼んだ。「エース」。おれはなんだか怒られるような気がして、返事はしなかった。

「おれだって、元通りになれたらと思ってるんだ」
「…なら、」
「わかってる」

強い口調でおれの発言を遮って、それからイサキは大声でサッチを呼んだ。潜っていたサッチは浮上して、崩れたリーゼントを片手で掻き上げる。浮輪の紐がイサキからサッチへ託されて、イサキは沖の方へと方向転換した。

「おれ先に上がるわ。魚あんま獲れてないけど悪いな」
「おー、どうした?」
「マルコと話すことがある。エース、マルコは今どこにいるかわかるか?」
「えと、町の方いった」
「ん、じゃあな。サッチ、エース任せたぞ。ちゃんと陸まで戻してやれよ」
「へいへい」

海の中にざぶんと潜ったイサキが、しなやかに泳いでおれたちから遠ざかっていく。
おれはなにがあったのかよく知らないけど、仲直り、出来ればいいな。

「…そういやサッチ、帰ったら船で待ってろって、マルコが」
「げ」



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