マルコ長編 | ナノ


    サッチめ。
あいつに頼むんじゃなかった。おそらく奴は、おれの真意に気付いている。

ナースとイサキの間に挟まってこいと指令を出して、何故だと聞いてこなかった時に察しておけばよかった。まさか言い触らしたりはしないだろうが、多少ちょっかいを出してくることは想定出来たはずだ。あまりにもカッと来て、冷静な判断が下せなかった自分を嫌悪する。

今までなら気にもかけなかった光景に、ひどく苛々してしまうようになった。ナースと話すくらいは日常だ。イサキのスキンシップも今になって始まったことじゃない。ずっと暗い表情をしているより、笑った顔の方がいいに決まっている。
けれど今は、イサキが誰と話してようが遊んでようが構わないと達観することが出来ない。

イサキに避けられている。
蹴り飛ばして、怒鳴りつけて、それからずっとまともに顔を合わせていない。いきなり遠くなってしまった距離は余裕をなくして判断を狂わせる。些細な誤解だと、あるいは腹の虫の居所が悪かったのだと伝えて謝れば、根に持たないイサキのことだ、すぐにまた元通りになるはずだった。だのにイサキがあからさまに避けて、こっちを見ようともしないから、呼び止めようとする手が上手く動かない。長い付き合いの中で、こんなにも明確な拒絶を受けるのは始めてだ。どうしたらいいのかわからない。苦しくてたまらなかった。大事な言葉が喉の奥で固まってしまっているみたいに、息がしづらくてどうにも身動きが取れない。


大人しくサッチとイサキの帰りを待つことも、二人の間に入っていくことも出来ず、町の中心部を気晴らしに歩いていくと、路地裏の薄暗闇の中から白い手がおれをこまねいた。「おにいさん、ねェ、おいで」。
艶めいた声で囁く夜鷹の誘いは、まだ白昼の時間帯にそぐわない。無視をして通り過ぎようとした時、裾を掴まれて歩みを止めざるをえなかった。「あんたに用はねェよい」。低い声で恫喝しても、女は笑う。

「寂しそうな顔してるね。まだ商売始めるには早いけど、特別に慰めてあげるよ」

くつくつと喉の奥で笑って、覗き込んでくる瞳は全てを見透かされそうで恐ろしい。一瞬躊躇った掌を握られて、おれは路地裏に引きずりこまれた。


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