マルコ長編 | ナノ


サッチは多分、元気のないおれを励ましてくれようとしてくれている。ありがたいことだ。これが仲間冥利に尽きるという奴か。

誘いに乗って、島に停泊中の船の近くで海に潜った。
泳ぐのは好きだ。得意と言ってもいい。悪魔の実を食べてカナヅチになるなら、能力者なんてなりたくもないくらいに海を愛してる。春島の気候ならばなお好きだ。体温に馴染んでいく冷たさが心地好い。

「…あ」

泳げるくせにおれの背中に掴まって楽をするサッチが、唐突に声を漏らした。「イサキ、空見てみ。マルコ」。指さした先には、不死鳥が青い炎を撒き散らして空を旋回している。美しい色。大方周囲の偵察をしているんだろう。真面目な男だ。おれはそこが好きになった。いや、真面目なところだけじゃない。冷静なところも、だけど案外ノリがいいところも、強いところも、家族思いなところも、勿論あの美しい青も。好きだった。過去形でいい。過去形にするべきだ。下手に好きだから、欲を掻いて失敗する。

「…やべ」
「うん?」
「おれボコボコにされちゃうかも」
「は?誰に?」
「イサキはおれのこと庇ってくれるか?」
「いや、そりゃお前がピンチなら庇うよ」
「イサキカックイー、愛してるぜ」
「はは、なんだそれ。おれも愛してるよ」
「………こんなに簡単なことなのになァ?」
「サッチさっきから意味わからん」
「キューピッド様の憂鬱ってやつだよ」
「…さっぱりわからん」

大きな溜息ひとつ吐いて、サッチはおれから離れ海の中。残されたおれは空を見ないように、ただただ俯いて首を傾げた。


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