あれ以来ずっと、ぎくしゃくしてしまっている。もしかしたらマルコはもういつも通りになっているのかもしれないが、普通に話し掛けて、またあんな風に怒鳴られたらと思うと言葉が何も出てこない。肩や背中に軽く触っていた手も上手く動かなくなる。
おれが悪いんだ。酔った勢いで気持ちが大きくなって、スキンシップの延長でキスくらいならいいだろうと軽々しく唇を奪った。マルコがおかしくなったのはそれからだから、あれがいけなかったんだろう。さすがに気持ち悪かったか。そうだよな、そりゃ当たり前だ。恋人でもない男からのキスなんて、おれだって嫌だ。
エースには諦めたなんて大人ぶってたって、結局心の底では諦めきれていなかったのかもしれない。その結果がこれだ。気まずくなるくらいなら家族のままでいいと決めたのは、誰でもない、おれだったのに。
「
具合悪いですか?とおれの顔を覗き込んできたのはまだこの船に乗って間もない新人のナースだった。早く慣れようとしているのか、こうやってまめに誰かに話しかけている。頑張り屋のかわいい妹分だ。
「…なんでもない、少し落ち込むことがあっただけだ」
「私でよければお話聞きますよ?」
「ありがとう。でも情けない話だから、ないしょ」
兄弟にやるように頭をぐしゃぐしゃと撫でてから、これはもしや女の子にやってはいけないかと気付く。セクハラだと怒られたらどうしようか。いや、まあいいか。こんな程度で騒がれてたら、海賊船になんかいつまで経っても馴染めない。
「わわっ、髪の毛ぐちゃぐちゃになっちゃいます…っ!」
「はは、小さい頭だなァ。中身入ってんの?」
「ひどーい!失礼ですよっもう!」
マルコ以外になら嫌われたって構わないと容易に触れるのに、マルコだとそうはいかない。あのふわふわした綺麗な髪にもう一度気安く触ることが出来たなら、今度こそ誓うよ。家族のままでいいんだって。