言わなければいけないことは何一つ言えなかった。サッチに背中を押されて考えなしにシャワー室へ向かったが、下着姿のイサキを目にして頭が真っ白になった。見慣れた姿だ。自分と違うものがついているわけでもあるまいに、動揺する要素なんて何もない。だのにおれは生娘のように動揺して、次から次へと流れてくるイサキの声に相槌も何も返せなかった。
蹴られたどころか黙り込まれて、気分がいいものではないだろう。しかしイサキは笑っていた。それに安心していたのだ。要らぬ誤解を与えたのではないと、腹の重く澱んだものが軽くなっていく。
イサキに合わせて笑えば、それでいつも通り。ただならぬ雰囲気は終わりを迎える。
でもおれは笑えなかった。「おれが一緒に風呂入ってやろうか」。イサキから出た提案は単なる冗談だとわかっている。いつもなら馬鹿言ってんじゃねェと呆れた素振りで怒って、冗談が冗談のまま流される。それが正解だとわかっていたのに、おれの頭はカッと熱くなって、どうしようもなく恥ずかしくなって、気付けば怒鳴っていた。
ぴりぴりと張り詰める空気。イサキはひどい剣幕のおれに引いたような声色で謝った。顔なんか見れない。どうしてこうなるんだ。
イサキがキスしたせいで、何もかも崩れそうになる。怒鳴るよりも、叫んでやりたかった。人の気持ちも知らねェで、あんなことするからだ。ばか。